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竜は伝承を呼び起こす 前編

1


「良かったのでごさいますか?彼等に協力して貰っても問題はなかったように思えますが」

黒瓜達が帰った後、CCは赤月に尋ねた。赤月はあまり感情的に動くことは少なく、どんな時であっても考えて行動している。その彼が意地などという理由だけで協力を拒むことはないと思ったから質問したのである。

「これ見てみろよ。警察はマスコミから隠し切れなかったみたいだ」

赤月からは質問に対しての答えではなく、テレビの画面を指差す。そこには『緊急特番!綿津原島にドラゴンが現る!』と通常であればオカルト番組と笑われるようなニュース番組が流れていた。

「これは…どのように社会に影響を与えるのでしょうか?架空の存在が人を襲い、自衛隊という1種の軍隊に討伐された。これが事実であれば」

「パニックが起きるだろうな。ドラゴンを確認にくる研究者や記者、一番多いのは野次馬か。そして危険だと分かれば、逃げ出す人間によって暴動が起きる。だから、コトが大きくなる前に止めたかったんだが…」

こうも大々的に公に晒されては、廻り始めた歯車を止めることはできないだろう。例えドラゴンが全滅しても、生き残りがいるのではないか、他にもそのような生物がいるのではないかという動きが起こることは目に見えている。

「CC…天地桜」

「なんでしょうか?名前などは好きに呼んでください。もう変える他ないのですし」

「博士はドラゴンに対しての武器は持ってなかったのか?あるなら教えてくれ」

武器。日本このくにには武器を許可無く所持することは禁じられている。それは第二次世界大戦後100年以上続く法律である。国際的に禁止されている人間のクローンの製造、非人道的な遺伝子操作を行っていた人物が銃を所持していても何ら不思議ではない。

「確かにマス…天地博士は銃を所持していました。しかし、それはあの研究室に保管されてあるため、今確保すること困難だと考えられます」

「問題ないな。警察はドラゴンを探すことに集中しているし、もうあの火事で殆ど研究の手掛かりがなくなったはずだ。それで研究室のどこにあるんだ?」

「研究室の入り口の右側の壁の中に保管されています」


「やっぱり巡回している警官は多かったな。けどもうここにはいないみたいだな」

赤月は瓦礫と炭の山と化したかつての研究所の前に立っていた。その周りには侵入禁止のビニールテープが張り巡らせてあるが、見張るような人影は見当たらない。来る途中に巡回していたようにドラゴンの騒動のために人員が不足しているのだろう。

(来てみると思ったより酷いな。この穴か、ドラゴンが飛んでいったのは)

大きく1つの穴が開いていた。昨日、ドラゴンがこの空間から飛翔し、解き放たれたのだ。覗くと地下の空間まで丸見えだ。

赤月は躊躇することなく飛び降りた。落下の衝撃を膝を曲げることで緩和し、

「やっぱり化け物じみた肉体だな」

と寂しげに呟く。天地桜から伝えられた箇所を手探りで調べていくと、

(ここか、確かこの部分を押して、この辺りに…)

カタンと壁の一部が凹み、その下には殺生と破壊の為に生み出された鉄の塊があった。

「これか…ライフルっていうのか?実際にこういうのを持つのは初めてか。さてと、どうやって出ようかな?」

火事によって階段は焼け落ちてしまっている。実質脱出不可能な状況であるのだが、

「やろうと思えば残った階段で登れるし、この程度なら跳んでも届くしな」

天井まではおよそ5メートル。どんなにジャンプ力があろうと届く高さではない。しかし、赤月は僅かな助走をつけ、腕を伸ばし跳躍すると、トンとその崩れた天井の上、地上の階からすれば床に当たる位置に触れたのだ。

天井を掴まず、自由落下する間。

(本当に化け物だな。ドラゴンと同じ、そう同じことをするんだからな)

赤月の真下にある空間、その大気が渦を巻く。風速40メートル以上では人間の身体は飛ばされるとされている。

ゴッと空気からは鳴るはずのない音が発生し、落下していた赤月の身体を暴風が押し上げる。

(ヤバい!)

赤月は焦った。落下の衝撃に肉体が耐えられないわけではない。自らを吹き飛ばしたことでダメージを受けたわけではない。だが、その空気の塊は大きすぎた。その気流は強すぎた。

あと少しで崩れ落ちそうな炭の塊を破壊するには充分な威力だった。


2


「それであの研究室は完全に崩壊し、轟音に気づいた警察官から発見されないように逃走してきたということですか。失礼ですが、そのような愚行は控えて頂けると幸いなのですが…」

常時無表情であるはずの天地桜が睨みつけて、赤月に忠告をする。

「私にはわかりかねますが、特殊な能力を持つと誇示したくなるのかもしれませんが、もう少し考えて行動して下さい。今回はこの程度で済みましたが、制御ができずに竜巻を発生させてしまったり、周囲の建物まで破壊してしまったらどうするつもりだったのですか?」

メイド服の白髪赤眼の少女から説教を受けるという一部の人間にとっては羨ましい状況にいる赤月だが、正座のまま天地桜の顔を見て、

(本当にすいません。本当に反省しているから解放してくれないかな?いっそ土下座でも…止めておこう)

と心の中で謝罪の言葉を永遠と述べていた。

そのことを察したのか、元々ある程度説教したら止めるつもりだったのか、

「もう過ぎたことは言ってもしょうがありません。いつ情報が入ってもいいように備えていて下さい」

天地桜が部屋を後にしたことを確認すると、天地はゆっくり立ち上がり、ベランダに出る。

遠くには、赤月の所為で壊された家屋の方向に赤い点滅する光が見える。赤月はその光景を見る為に外に出たのではなかった。

目をスッとまぶたを下ろし、僅かに隙間を開けて夜景を眺めると、

(やっぱりか。昼より見えやすいな幽霊)

赤月の視界には見えるはずのない存在が写っていた。しかし、それはついでに過ぎず、本当に見たいものは、

(もし、仮説が正しいなら。玉城の背後にいたのは守護霊。しかし、それだけで霊能者にはなれない、寧ろなくても問題ないと思う。その人間のオーラとか魂が重要なはずだ。なら、玉城が俺に違和感を感じ取れたように、俺もドラゴンのオーラを感じ取れる可能性がある)

全神経を集中させた。ボヤけた視界には、より鮮明に何かが写し出される。

(どこだ?感じ取れ存在を………ッ!)

このとき、同じ因子を持つ者同士で繋がりができた。赤月が存在に反応したように、もう一方にいたソレも気づいた。否、赤月が発見したのも、赤月に反応したのも6つ。

その気配を感じ取った赤月の背筋にゾクッと寒気が走る。まるで脊髄を刃物なぞられるような恐怖。勿論、相手は目の前にはいない。しかし、研ぎ澄まされた感覚に送られる凄まじい圧力は、目の前どころか全方位を囲まれたかのような錯覚を生み出す。

ここで赤月は感覚を普段通りに戻した。

(忘れてたな。狩る側なのはアッチも一緒だ。これは正直、銃1丁じゃ足りないな。でも、アイツ等の場所だけは大まかに分かったのは悪いことじゃない)

赤月は隠していた銃を取り出し、引き金に指をかけて構える。戦闘のイメージを組み立てていく、

(あの時、ドラゴンの致命傷になったのはヘッドショット。俺には遠くから狙撃する技術はないけど、至近距離から確実に当てる)

イメージが終わると、再び銃を元の位置に隠す。そして、下の階から感じた料理している気配の元へ向かった。


3


人口の森林に数多の銃声が響き渡る。

「くっ、よく狙え!動きを予測して撃て!」

銃声に掻き消されないほど大きな怒号が部隊の士気を駆り立てていくが、その銃弾はまだ一つとして攻撃対象に命中してない。

宙をその大きさからは考えられない速度で飛び回るドラゴンは、風を纏い銃弾の雨を擦り抜けていく。その動きはまるで映画やアニメを見ているかのようで、宙返りやVカーブ、急停止からの空を蹴るバッグステップといった飛行していては不可能なものだった。

「本当に夢なんじゃねぇのか!?」

1人の隊員が愚痴を溢すが、正にその通りである。そもそもドラゴンが飛んで、自衛隊が殲滅作戦に出るということそのものがあり得るものではない。

「!!っヤバい!」

この時、1人の隊員が危険を察知した。

彼は海外の戦場で戦い、生き残った経験がある。その経験から得た僅かな空気の温度や目の端に写るような光から危険を察知する能力を会得していた。

しかし時既に遅し、その予知にも等しい直感も意味をなくした。


陽炎がゆらゆらゆれたかと思うと、周囲一帯が明るい光に包まれた。


その瞬間、一瞬前に鳴り響いていた銃声の数とは比べものにならない数の爆発音が、一つ(・・)聞こえた。一度に同じタイミングで全ての薬莢を火が焼いた為、数百、数千の音が一つとなったのだ。

その爆発と凄まじい熱量により、無数の屍が焼けた地面に転がることとなった。


「!今の音。天地、銃声が止んだ。急いであっちに向かう」

『はい。御武運を』

赤月は人工林の中を突っ切っていた。倒木も岩もない整備された綺麗な森を地を蹴り木を蹴って、巨大な爆発音の下へと向かう。

(やっぱり、自衛隊の方が動きが速い。でもアレは違うんだ)

木々の間に見える揺れる光、その中へ転がるようにして飛び込むが、周りからは動くものの気配が感じられない。その代わりに転がったときに土よりも柔らかい何かに触れた。

(全滅!?この焼け野原はなんだ?まさか…)

勢いよく首を上に向けると、翼を広げ、蛇のような眼光でこちらを見つめてくる竜が空中に佇んでいた。

「ガグルルルルルルルルル」

(この様子だと、どんなに狙いを定めようとしても当たらないだろうな。なら…!)

ドラゴンは危険だと感じとったのか、上空に飛び立とうとする。その真下では空気が渦を巻いていた。

上昇を止めたドラゴンは回避することが不可能だと察したのだろう。ドラゴンの周りには渦巻く見えない壁が発生していた。

(わかるな。アイツのやろうとしていることが、アイツも俺のやることがわかっているみたいだけどな)

地面付近から竜巻が発生し、上空に向けて大量の空気と砂利や土を巻き飛ばす。その程度の威力ではドラゴンにダメージを与えることは難しく、砂利も銃弾に比べれば回避するのは容易いだろう。しかし、空中を飛行している相手にとっては気流を乱されることは大きな妨害となる。そのため、距離をとってもバランスを崩されてしまい、最悪地面に叩きつけられてしまう。

対してドラゴンは気流を乱されまいと、より強い気流を作り出す。稀に竜巻同士で衝突することがあり、その場合は互いに打ち消し合い勢力の強い方が残るとされる。

赤月の竜巻は上空のドラゴンを呑み込んだ。ドラゴンの風の壁の方が強いらしく、ドラゴンが飛行を乱される気配はない。

「舐めんなよ!俺はお前の親なんだ、ヒヨっ子なんかに負けらんねぇんだ!!」

突然、ドラゴンの防壁が崩れ壁の主が宙に放り出された。

「ギ、シャァァア!?」

何とか体勢を整えようとするドラゴンを巨大な大気の手が掴み取る。その暴風は地面へとその身体を投げ飛ばす。

「グ、シュー、シュー」

ドラゴンは地面に激突しながらも、なんとか空中へ戻ろうとする。

「ギャ!!」

ドラゴンが離陸のために生み出した風は、想像以上に強くなりまたも地面へと転がることとなる。

ドラゴンには、何が起きているのか理解できていないだろう。わかっていても対応するののとは困難であるのには変わらない。

風は別の方向の風とは互いに打ち消し合ってしまう。しかし、同じ方向の風は合わさり、一つの風になる。

(また!上昇気流が出来てる。片方に俺も合わせる!)

赤月は鋭い洞察力で風向を読み、気流をドラゴンの想像とズラしているのだ。それはドラゴンからすれば自由自在に操れる気流が思い通りにならないと錯覚するだろう。

「ガルッ、グルルルルル」

ドラゴンは赤月の仕業だと理解したのだろう。飛ぶことを止め、赤月に向かって走り迫っていく。

(ここだ。よく狙え!一発で仕留める)

赤月はドラゴンの起こす気流に警戒しながらも銃口をドラゴンの眉間に合わせようとするが、頭を左右に振っているため狙いが定まらない。

(ちっ、噛みつきにくる直前狙うしかないか。なら、こっちからも行く!)

赤月はスコープから目を外し、ドラゴンと距離を詰める。すると急にドラゴンは脚を止める。空気がユラリと揺れる。

「があ!おらあああ!!!」

危険を感じた赤月は自分自身を空中に飛ばし上げる。下を見ると、

「なっ!火を吹いた!?」

そうドラゴンの前方、先程まで赤月のいた位置が赤々と燃えていた。それは正に、童話に出てくるドラゴンの如く火を吹くように見えた。

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