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竜の翼を破らんとする者

1


「なっ、マジかよ」

驚愕した。予想外だった。ありえなかった。

呆然とドラゴンが骸に成り行く様を見ていた赤月は何が起きたのか理解しきれていなかった。数秒前までドラゴンの凶爪が自分の知る人物を傷つけようとしていた、ドラゴンが文字通り天から撃ち落とされ、地を這い蹲っている。そこに容赦なくさらなる銃撃が撃ち込まれる。

「君、大丈夫かね?」

赤月の意識を戻したのはその竜退治を行う隊の人員だった。物々しい黒光りする銃に、防弾着からヘルメットまでの装備を着けた大柄な男だ。

「はい、ちょっと擦りむいただけです。俺の部活仲間を助けてくれてありがとうございました」

勝手に横槍出されて自分のけじめを掻っ攫われたことに苛立ちはあるが、今は怪しまれないことが先決だと思い。謝礼を伝えてこの場をやり過ごそうとするが、

「悪いけど、事情聴取に応じてくれないかな?こちらとしては、あの意味のわからない生き物の情報が少しでも欲しいんだ」

男の後ろを見るとオカルト研究部のメンバーも事情聴取に応じるらしい。怪しまれないためにも断ることはできない。実際、当初の目的であったドラゴンの無力化に関しては解決されたのだから、安心していいという状態だ。

「わかりました。わかることは少ないですが、答えます」


「お前、なんであんな所にいたんだよ」

オカルト研究部の部長である黒瓜から言及される。彼等はあの場では血の海と化した惨状に少なからずショックを受けていた。

「ドラゴンが現れたって聞いて、それで見に行ったんだ。お前等もそうだろ?」

「ええ、そうどす。でも、赤月はんはあの状況へっちゃらやったんですか?」

動揺して標準語と京都弁の混じった言葉を話す眼鏡をかけた少女は須佐姫理すさ ひめり。いつもはちゃんとしたエセ京都弁を話すが、今は強いショックで崩れた日本語を話している。オカルト研究部のメンバーの高校1年生だ。担当は『心霊科』でグロいことも嫌いではないと言っているが、実物を見てショックを受けるということは、今回が初めてだったのだろう。

「俺は解剖の授業も出てるから、血は見慣れてるんだよ。それにドラゴンに興奮しててハイになってたのかもしれないしな」

できるだけ心情を知られないよう、嘘を混えないように誤魔化そうとしていく。しかし、ドラゴンに掴みかかったことは警察官から漏れていることは確かである。

「それより、その制服どうしたの?ドラゴンに襲われて擦り切れたならわかるけど、所々焦げてるわよ?」

如月の質問に赤月は焦った。昨晩、倒れてしまい。着替えることなく今の今まで行動していたので、赤月の制服は昨夜の火事で焼け焦げたままである。そして、先ほどドラゴンに飛びついたときや転がったときに付着したものや、昨晩に火傷や怪我から出血したものなどの血液も衣服に染み込んで明らかに只事ではないのは、初対面の人物でも伺い知れることがわかる。

「実は、昨日の晩…」

「すみません。準備が整いましたので事情を聞かせて貰っていいですか?」

婦警の言葉で赤月の声は遮られ、5人のいた警察署の会議室に3人の人物が入ってきた。2人は警察官だろう、男女1人ずつの警察官だ。もう1人は恐らく自衛隊関係者だろう。

男の警官が口を開く。

「君達は私立才進高等学校の黒瓜光星君、赤月真人君、如月美歌さん、須佐姫理さん、玉城舞衣さんでいいかな?」

「「「「「はい」」」」」

「君達5人はあの生き物を見るために、警察の警備網を抜けてあそこにいたってことであっているかい?」

「はい。だけどマサトーは一緒じゃなかったさー」

独特のイントネーションと方言を話すのは、スレンダーで長い艶のある黒髪の少女、玉城舞衣たましろ まい。彼女はつい1ヶ月前まで沖縄の離島に住んでおり、とある事情から才進高校に入学したために、まだ標準語が使えない状態である。須佐と『心霊科』を担当している。

「赤月君。君はうちの職員を助けようとあの生き物に飛びついたらしいね。それについては礼を言う。しかし何があったんだ?あの生き物のことも何か知っているのか?」

「昨晩、俺はドラゴンに襲われました。そのときはなんとか逃げました。それでドラゴンの情報が入ったので、駆けつけるとドラゴンに襲われている人がいたので」

嘘ではない。しかし相手はプロ。やはり何か引っかかる様子である。

「君は昨日、学校を抜け出しているらしいな。何処へ何しに行ったんだ?」

赤月は完全に追い詰められた。ここで下手に話せば研究についても探られかねない。もしCCのことまで辿り着かれれば終わりだろ言っていい。

赤月は全力で言い訳を考えた。そして、強引に、

「昨日、見えたんですよ。ドラゴンが学校から。それで学校から抜け出しました」

嘘だ。しかし、学校から見えた気がするでも問題はない。何故なら、その存在は実在していたのだから。

「なるほど。確かにあの興味深い生物を見たさに学校を抜け出す人もいるでしょう。しかし、その場所で何故通報しなかったのですか?服を見る限り火でも吹かれたようですが」

「それは……警察にバレればもう見ることができないと思ったからです。そう、どんなに危険な存在であっても、もう一度自分で見て、触れたかったから通報しませんでした」

そう語る赤月の目は嘘を感じさせない。嘘を吐く動揺よりもドラゴンに対する思いが強く、警察官も言及する隙が見つからなくなったのだ。何よりここまで問い詰めてもボロが出ないので、警察も諦めていた。

「わかりました。では、これで最後です。あの生き物は何処で見ましたか?」

赤月は迷った。本当ならば昨晩火事にあった天地の自宅なのだが、調べられると赤月自身やCCに関しての繋がりが見つかる可能性が出る。しかし嘘の情報では、ここまで誤魔化してきたことが破られてしまう。赤月はあらゆる可能性を考え、ありえたかもしれない事実を導き出す。

「………学校から1キロくらい行った所の、確か昨日火事がありましたよね?そこから多分西に当たる場所だったと思います」

警察官は答えるまでの間と不確定な情報に眉間にシワを寄せる。

「場所は定かではないと?」

「いえ、飛んでいたので走って追いかけていましたから、ちょっと距離は微妙で、方角はあってます。でも襲われてからかなり逃げたから場所は…わからないです」

あの日、赤月の身体能力は常人を遥かに超えていた。故に赤月のいたと予測される場所は事実よりも短くなるのだ。そして、ドラゴンは飛行していたということから、周りの場所を確認する暇はなかったとも判断できる。襲われたのであれば、パニックになり地理感覚が狂ってしまうのにも頷ける。そこまで予測した赤月の嘘(答え)だった。

「ご協力ありがとうございました。皆さんは…、明るいですし個人で帰れますね。でも今後は絶対あのような場所に行かないで下さい。実は入ると法律違反ですからね。今回は…無しにしておきます」

5人は婦警の呆れた微笑みでなんとかなったことを悟り安心する。そのまま、婦人警官に連れられて玄関まで来たことで、やはりあの緊迫した状況に疲れたのか溜め息を吐く。婦警に最後に、

「警察は信用して下さい」

と赤月に対しての注告をされ、警察署を後にした。


2


「さて、まだ話しは終わってないわよ」

解散宣言をしようとした赤月の言葉を如月が遮る。やはりオカルト研究部のメンバーは納得していないようだ。

「マサトーの家で話しを聞きたいさー。行っていいば?」

赤月は当然のことながら自宅で待機しているCCのことが頭に浮かぶ。正直言ってこの状況は覆せる程楽ではない。赤月は討論であれば、100人だろうと相手にして勝てる自信はあるが、2人以上から意見を押し付けられると負けてしまう程に押しには弱い性格をしている。

「やっぱり何や隠したはることがおますんどすな?」

タブル方言で赤月はどんどん追い詰められていく。警察は正直、強行突破してこない分楽ではあるのだが、部活仲間は実力行使に出る場合があるので、断れば怪しまれ、頷けば隅から隅まで調べられかねない。

(マズイな、CCに連絡しようにもこれじゃできねえし、このままじゃ家までついてくるよな)

不意に赤月の携帯端末に着信が入る。この事件で心配した両親からのモノだと願ったが、不幸にも

『もしもし赤月様。結果はどのようになりましたか?』

「あ…ああ、ドラゴンは自衛隊に討伐されたよ。今から家に帰るところなんだっ」

赤月の手から如月が端末を奪い取る。

「もしもし、私は赤月真人と同じ部活の如月美歌です。失礼しますが貴女のお名前を伺っても宜しいですか?」

「おい!今すぐ通話を…もご…れ…ん…」

赤月は黒瓜達に手脚の動きから声まで封じられてしまった。赤月はどうか通話を中断してくれと願うが、

「……………なるほど、ではこれからそちらに伺います」

通話を完了した如月が端末機械を拘束されている赤月に手渡す。如月は会話では全て解決しなかったのか、未だに硬い表情を崩そうとしない。

「というわけでお邪魔します。赤月君」

突然束縛を解かれた赤月の肉体はガクリと項垂れ、地面に膝をついた。


「へー、マサトーの家はでーじ大きいさー」

玉城が赤月の家を評価する。大きい家というプラスの評価を受けたが、赤月は到着したことに沈んでいる。

「それほどじゃないぞ、黒瓜先輩のはマンションだけどここよりデカイ部屋だから」

「え、それほんまですか?」

まだ知り合って日の浅い1年生の玉城と須佐は黒瓜に視線を向ける。黒瓜は後頭部を掻きながら、

「まあ、俺の親父がちょっとな」

普通に誤魔化そうとするが如月が割り込んで、

「黒瓜の父親は大企業の社長よ。で、その息子は次期社長候補ってわけよ」

嫌味たらしく黒瓜の個人情報を語るのは、実は如月の父親の職場がその企業なのだからだ。

(毎度思うんだが、普通なら印象よくして出世させようってならないのか?プライドが高いって大変だな)

全てを把握している赤月は冷静に一般論を思い浮かべていた。

一通り話が終わると、

「さて、赤月の家にお邪魔するか」

当初の予定通り、5人は赤月宅に入ろうとする。

赤月はこの招かれざる客の先頭に立ち、

(どうする。CCはいるのか?さっきの如月の話だといるよなー。いっそ入ってすぐ閉めるか?絶対に悪い状況にしかならないな)

なんとかこの状況を逃げ切る策を思案するが、どれも失敗に終わることしか思いつかない。

仕方なく悪足掻きを諦めた赤月は、自宅の扉を開く。

「お帰りなさい。真人君」

赤月は思考が停止した。何故ならそこには、

ネコのイラストがプリントされた黒いパーカー、透ける感じのある長めのスカート。ラフだが、しかし可愛らしさのある服装の白髪赤眼の少女が笑顔・・出迎えたからだ。

「え?なんで、」

赤月は狐につままれたような顔をしている。それもそのはずである。普段その少女は常にメイド服を身に纏い、表情は凍りついたように無表情だったのだから。

「赤月はん、その人紹介しておくれやす」

事情を知らない赤月をよそに須佐が質問をする。

その問いを赤月の代わりにCCがっこりと微笑んで答えた。

「初めまして。私は赤月真人君の従姉妹の天地桜です。皆さんどうぞお上がりください」

「お邪魔します」

目を丸くしている赤月に、

「真人君は皆さんを案内してね。私はお菓子の準備をしておくから」

と言って白髪赤眼の少女はキッチンへと向かった。言われた通りに赤月は客人をダイニングへと案内する。

「ちょっと待っててくれ、俺も手伝いに行ってくる」

現状を理解できない赤月は急いでキッチンへ走った。キッチンでは紅茶の準備をしている少女の姿がある。

「おい。CCどうしたんだ?まずその服はどうした?」

「はい、失礼ながら赤月様のお母上の衣服を拝借させていただきました」

その無表情のままから、抑揚のない言葉が畏まった口調で発せられると赤月は安心した。

「先程の私の設定は理解できましたか?あとの私への質問はできるだけ私が対処します」

「失礼なんだが、あの笑顔は何なんだ?」

するとCCの氷のような表情から、和かな微笑みに変わる。

「いつもはあまり顔に出さないけど、私だってこれくらいのことはできるんだよ。それにあの口調じゃ怪しまれるでしょ」

赤月は苦笑いのまま固まってしまった。

CCは決して表情がない訳ではない。赤月もその微小な変化を確認している。しかしこうもニコッりと微笑まれるとギャップが強すぎて、反応に困ってしまうのは仕方がない。

「さあ、皆さんを待たせちゃ悪いから行くよ。真人君はそのお菓子を持ってて」

赤月はこの時初めてCCから直接指示された。

(驚いたが、これもCCの演技なんだ。俺もヘマしないように気をつけなくちゃな。CCじゃなくて、天地桜。桜って呼べばいいのか?)

ダイニングでは4人がそれぞれの疑問を持った顔で赤月達を待っていた。

「お待たせしました。どうぞお召し上がりください」

完璧な接客マナーのCC、もとい天地桜に赤月は舌を巻く。

「ありがとうございます。えっと、天地さんは赤月君の従姉妹でよろしいですよね?」

「そんなに固くならなくてもいいんですよ。はい、さっき申し上げた通り真人君の従姉妹です。皆さんのことは聞いていますよ。如月さんは裏表が激しいけど一生懸命だ、とか、黒瓜さんは天才肌だから感覚で動くけど、もっと考えてから行動した方がいい、とか」

フフフと楽しげに語る少女に黒瓜達4人は緊張が解けていく。赤月は雰囲気から1人取り残されてしまっている。

(確かにそんなこと話しはしたけど、博士もCCも全く食いついてくれなかったぞ)

「天地はんは学校は行かへんの?見る限りわてらと同じくらいやと思うんやけど」

「あの、言いにくいんですけど、ちょっと試験に落ちちゃいまして、それで頭の良い真人君のところに来ているですよ」

天地桜とは既に他界した人物で、それを名乗るCCも戸籍には存在しない。なので学校は疎か、義務教育も受けたことはない。しかし、高校を浪人したことにすれば学校に行っていないという口実が通る。

「へー、頭悪そうには見えないけどな。てか、それより赤月と天地さんはアレについて知ってたみたいだけど、どういうこと?」

1人だけ菓子に手を出している黒瓜が本来するべき質問をサラッとする。

赤月はCCが任されるのかアイコンタクトを取るが、返答は僅かに首を動かして、

(お願いします。赤月様)

というような動作をした。

「さっき警察の人にも話したけど、俺は昨日見たばかりなんだ。あ、桜にも昨晩話したら情報集めてみるって言って、朝に動画見つけたから探してみたんだよ」

たどたどしい感じで話す赤月に対して、如月や須佐は怪しんでいるが納得はしたようである。

しかし、赤月の自宅に入ってから終始無言だった玉城がずいっと顔を赤月に近づけた。

「なっ、なんだ。どうしたんだ玉城?」

「マサトー、やっぱり違うさー。こっちに近くなってるさー」

全員の赤月の見る目が瞬時に変わった。

玉城舞衣という少女は沖縄の霊能者やシャーマンといった類の人々、ユタという霊能者(本人はカンカカリャというのが正しい)の素質を強く持っており、一通りの修行も終えている。実際、霊能力はあるようで霊視や除霊、降霊なども行うことができる。才進高校校長が沖縄に旅行した時、その能力で身の回りの様々なことを言い当てられ、災難が避けられたとかで特別に入学が許された存在である。

そしてその能力はオカルト研究部のメンバーも知っている。その彼女が近いということは赤月にも能力があると察したからである。

「どういうことなの?玉城さん。赤月君が霊能者になったとでもいうの?」

「ううん。でもマブヤーが前より私に近くなってるさー。マサトはカミダーリィ、お告げとか見たば?」

赤月にはそんなことは全く覚えが存在しない。もしも、その可能性があるのなら、

(ドラゴン。博士の『思考の現象化』と関係あるのか?でもそんな能力はない。ただ身体が頑丈になっただけ………)

「うっ、」

赤月は突然、頭を抑え悶える。CCは赤月の肩を掴み、

「大丈夫ですか!?赤月様。わかりますか?」

赤月はしかめた顔で薄っすら目を開け、瞳に映る光景に驚愕して目を見開く。赤月は鳥肌が立ち、タラタラと冷たい汗を流している。

「はぁ、はぁはぁ。悪いちょっと気分が悪くなっただけだ…」

「見えたんだば?もう話してくれると嬉しいさー」

玉城だけは何か理解したようである。如月達も尋常ではない状況に警戒している。

「天地さん。さっきの言葉遣い、それに赤月君に対しての態度。本当はどういう関係なの?」

CCは視線を落とし、赤月を支えながら尋ねる。

「もう話されてはいかがですか?それに言い逃れできる状況ではないようです」

「わかった。もう全て打ち明けよう」


3


赤月とCCはドラゴンを生み出したことを語った。

「あのドラゴンは赤月様と天地創造という研究者が作り出しました」

「そして天地桜さんはその研究者の助手ってことか。本当にお前があいつを作ったのか?」

確かにどんなに天才や優秀だと言われても、高校生がドラゴンを作ったことが信じられる訳がない。

「ああ、俺と博士で作った。本当はドラゴンなんて物じゃなくて、爬虫類に鳥を掛け合わせた合成獣キメラなんだ。だけど、その程度で収まり切らなかった」

赤月は一呼吸置く、身体の異変と危険を被ってまで秘密を明かしたことで精神には大きな負荷がかかっている。

「ドラゴンは超能力を持っている」

他の人物から聞けば冗談に感じるだろう。しかし赤月の眼には鋭い意思がある。

「どういうことなの?超能力なんてまだ立証はされてないのよ」

超能力についてはよく知っている如月でさえ、その存在には確証が持てていない。だが、赤月は確信していた。

「ドラゴンは超能力を使って飛翔しているはずだ、でないとあの大きさで助走無しで飛べるわけがない。俺が飛びついたとき風を纏っていたし、飛び上がる瞬間は上昇気流が生まれていた」

鳥類、哺乳類に問わず飛翔する動物は羽ばたいて飛ぶものと滑空しながら上昇するものがある。羽ばたいて飛ぶものは軽量なもので、重く大型のものは滑空して飛ぶ。

最も難しいのは飛び立つ時であり、翼を打ち下ろして推力を得るものや落下してから飛び始めるもの、助走するしないの違いがあるが跳躍して空気を掴むものと様々である。だが大型の動物は幾ら風を受けても徐々に上昇するしかないのである。

しかし、ドラゴンはその大きな身体を真上に急上昇させた。それは不可能に近い動きであり、特殊な条件下でない限り実現することはできない。そう特殊な条件が揃えばだ。

「気流を操作する能力?あり得へん。そないことがあるわけ…」

「ヒメリー、説明できないことはあるさー。マサトーは見えたんだば?」

実際、存在しないとされている霊の存在を確認している玉城にはわかるのだろう。

「ああ、少しな。今もだけどオーラ?なんか説明しにくいのが見えてる。もしかすると超能力も近い何かなのかもしれないと思ったんだ」

「それは何故なの?話しじゃ身体能力も強力になったて」

「ドラゴンと接触したことが媒体になったんだと思う。さっきは玉城から大きな何かが、頭の中に流れてきた感覚がしたから、能力のある者と接触で発現するのかもしれない」

赤月はその瞬間を思い返す。

(玉城についていたのは何だ?その力が俺に触れた途端に…あれは強引に能力を覚醒さちまったからか?)

「そういや、赤月は何か能力は使えないのか?ドラゴンは風を操ってたんだろ?」

「確かに、ドラゴンが媒体ならドラゴンと同じ能力が発現してもおかしくあらへん」

(風、気流、空気。物体を浮かせたり、曲げるみたいにするのか?大気の流れを読むみたいに?)

赤月は試しに両手の間に空間を作り、イメージを思い浮かべる。薄っすらと見えるオーラに動きが現れる。

(フワフワした煙に近いか?いや、本当に心霊写真に写ったオーブや幽霊と同じ感じだ)

バチン!と音が鳴り、赤月の両手は見えないはずの何かに弾き飛ばされる。玉城ははっきりと見えていたのか1人状況を理解しようと試みている。

「何が起きたの?!拍手したようには見えなかったわよ。もしかして今のが」

「多分、成功したさー。霊力セジが動いたら空気を動かしたさー」

赤月はヒリヒリと痛みを感じる両手を眺め、もう一度試みようとする。今度は右手を机に向け、先程と同じようにイメージを強める。

赤月が右腕を振り上げると、バサバサと机上のノートやペンが風により巻き上がった。

「できた…これで何とかなるわけじゃないけど、可能性が見えてきた」

「なら俺達もドラゴンの捜索に協力するぜ。あの時みたいにはならないからよ」

黒瓜の他3人も乗り気のようである。しかし、赤月は首を縦には振らない。

「悪いけど、これは俺がどうにかしなきゃいけないことなんだ。それにドラゴンは正直言って危険だ。お前らの力を借りることはできない」

「そう。ならこっちは勝手に動くわ。安心して、絶対に危険なことはしないし、学校の部活動の域を越えるようなことはしないわ」

如月の言葉には、断れたのは残念だが思う存分やれという意味が込められていた。

「任せたぞ」

「おきばりやす」

「ちばりよー」

それぞれから赤月に激励の言葉をかける。赤月にとっての戦う理由がまた一つ増えた瞬間である。

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