1―8 再会
「はい。美咲さまと鳴海さまが参られました」
瞬きするうちに着物の裾を正し、なおかつピシリと正座し直すという早業を行なった揚羽に二人は呆気に取られ、その間に彼女は報告を終えていた。
再び中から声が聞こえてくる。
「そうか、なら入れ」
「失礼します」
揚羽は一礼し、音もなく障子戸を開いた。
『早く準備して』
戸に手をかけるときに口だけを動かして彼女は美咲たちに告げる。
慌てた二人だったが戸が開く寸前に何とか姿勢を正し終わり、開くと同時に深々と頭を下げた。
先に美咲が口を開く。
「煉賀家が一人。呪術師煉賀美咲、当主の命により参りました」
「同じく煉賀家が一人。呪術師煉賀鳴海、参りました」
続けて鳴海が同様のことを告げると、一拍置いてようやく声がかかった。
「二人共、顔を上げなさい」
「「はい」」
言われたとおりに顔を上げると、正面右側に鋭い目付きの厳格そうな男性、左側には揚羽が言っていた‘お客様’であろう人物が座っていた。
厳格そうな男性は言うまでもなく当主・煉賀絢斗である。
「綾、既に知っているだろうがこれらは私の娘と甥にあたる者だ」
一瞬二人は当主が何を言っているのかわからなかった。いつもと違う不自然な言い回しであるような気がしたのだ。
それを尋ねる前に‘お客様’がこちらを向き、そして妙に耳に心地よく響く声で言った。
「はじめまして。‘協会’から参りました、水流術師・睦月綾といいます。綾とお呼び下さい」
実を言うと、綾と名乗った人物が男性であると完璧に判断できたのはその声のおかげだった。
中性的な顔立ちに切れ長の目、細身の身体。さらに墨色の髪は美咲より長く(!)、古風な髪留めで結われていたため一見すると美女のようにも見えたからだ。
そこであれ、と思う。
(この声どこかで聞いたような……)
かといって‘協会’に知り合いなんているはずがない。気のせいだろうと納得しかけた矢先――正座した彼の足元に、一振りの刀が置かれているのが視界に入った。
黒塗りの鞘に青色の飾り。最近見たような気がする。
聞き覚えのある声に見覚えのある刀。その二つから考えると……
「ああ―――――――っ!!」
気づいた瞬間、美咲は大声をあげて立ち上がっていた。
至近距離でその声を聞いた鳴海が耳を押さえながら声を荒げる。
「どうしたんですかいきなり!」
「きっ、昨日の…」
そこで思い出したらしく、鳴海がはっとした表情になった。
「昨日の変な人!!」
その言葉に鳴海は器用に頭を畳にぶつけ、
言われた本人はただ苦笑した。