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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
五、夜は浸食する
88/90

5―18 少年

今回、最後に試しでちょっとした挿し絵を入れています。「イメージが壊れたら嫌だ」「作者の絵なんか見たくない」などという方は挿し絵機能をOFFにしてご覧ください。




「ご無事で、良かった……!」



 驚愕から回復した美咲が最初に認識したもの。それは、美咲の右手を縋るように握る――黒髪の少年の今にも泣き出しそうな顔だった。


 瞬時に警戒し身を固くする。が、美咲は相手が見覚えのある人物であることに気付き……困惑した。


「此方くん……?! どうしてあなたがここに……」


 問いかけた美咲に、少年――空嶺此方は一瞬きょとん、としたあと憮然とした表情で答える。


「どうしてって……貴女を、美咲さんを助けるためですよ!」


「助け、る?」


 ――その言葉に、妙な違和感を覚えた。


「そうです!」


 力強く頷いてから此方は左手で美咲の手を握り直し、安心したかのように大きく息を吐く。


 逆の手は涙をごまかすためなのか目元をこすり、安堵からか若干興奮したような様子で、此方はやや早口ぎみに言葉を紡いだ。


「本当に、間に合って良かった。慌てていたので上手く神社に繋がるか不安だったんですけれど、ちょうど美咲さんの真横に出れましたし――無事に脱出できた」


「脱出……?」


 そこでようやく、美咲は自らの居る場所が先程までと大きく異なっていることに気付いた。


 赤色の広がる石畳は掘り返されて穴ぼこだらけの地面と土の山に。


 境内を囲う木々たちは白く薄い鉄板の壁に。


 桜の樹は組み上げ途中の鉄骨に。


 奥に見えた古びた社は青いビニールが掛かった木材置き場に。



 そして何より、空は煌々と輝く月を消し去り――夕焼けが薄闇へと沈む世界へ姿を変えていた。



 綾と鳴海の姿はなく、剣戟の音も聞こえず、血の香さえしない。


 けれど、確実に見覚えのある場所。なぜなら、ここで美咲は“歪み”を封じたのだから。


 そうだ、ここは――一週間と少し前の夜、黒い龍の異形と戦った工事現場だ。


「なんで……さっきまで確かに神社にいたはず。……それに、また夕暮れ?」


 美咲は僅かな橙色に照らされた光景に、眉をひそめる。


 既に血も、死体も……惨劇の痕跡は全てなくなってはいるものの、ぼんやりとあの時の光景が――人体で描かれた炎が脳裏に浮かんだ。


 そしてそれに重なる、赤く染まった布の沈む血の海。


「っ、そうだ! 此方くん、二人は……鳴海たちはどこっ?!」


 慌てて尋ねた美咲を訝しむように、此方は首をかしげた。


「鳴海さんですか?




 ――――知りません。今もまだあの神社で殺し合いをしているのでは?」




「……え?」


 ――今この子は、何を言った?


「だって、ボクの目的は美咲さんを助けることだけでしたから。他の方が何をしているかはどうでもいいことですし」


 本当に無事でよかったです。


 此方はそう続けて、微笑んだ。


 それはつい先ほど、鳴海たちの剣戟を殺し合いと認識した上で、『どうでもいい』と切り捨てたとは思えないような、とても嬉しそうな笑みで。


 無意識に震える声を抑えて、美咲は再び問いかける。


「ねえ……助けるって、何から?」


 少年は、それが至極当然であるかのように、笑みを湛えたまま言った。





「そんなの、人殺しの睦月綾(ヒトゴロシノムツキリョウ)からに決まっているじゃないですか」





 言い表せない悪寒を感じて、美咲が咄嗟に握られた手を振りほどこうとした瞬間――指が食い込むほどの力で手首が掴まれた。


 激痛に、思わず顔がゆがむ。


「ねえ、美咲さん」


 痛みから洩れそうになる声を噛み殺し、美咲は此方に視線を遣った。


 此方は先程から寸分の狂いもないままの表情で、ゆっくりと口を開く。


「……ついて来て、もらえますか?」


 ぎり、と音がしそうなほど強く、少年の指に力がこもった。


挿絵(By みてみん)



文章があまり気に入ってないので、後から直すかもしれません。挿し絵を含めて、おかしい部分はスルーして下さると助かります……。


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