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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
五、夜は浸食する
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5―4 予感



 

 ……予感とは本人の意識無意識に関係なく、未来に起こりうる事象を感覚として、あるいは確信として認識するという、呪術師特有の、ある種の予知や予言のようなものである。勘が鋭い、といえば聞こえはいいが、実際はそんな生ぬるいものではない。未来の情報を受け取るということは、それに比例した疲労を負うことになるからだ。


 そしてそれは術師としての能力が高ければ高いほど研ぎ澄まされ鮮明になっていき、訓練次第では――先天的な場合もあるが――ほんのわずかな違和感や異変でさえ読み取れるようになる。決して全ての物事で感じるわけではない。だが、重大な出来事に関わる予感は確実に、強い衝撃を伴って‘感じる’。


 つまり――――言うまでもなく煉賀の術師のトップである当主・煉賀絢斗が、あれほどまでに美咲たちが強く感じた予感を感じないことなど、ありえるはずがない。いや……ありえてはならないのだ。


 美咲と鳴海だけが予感を感じた。


 ありえないことが、起こった。


 呪術師の予感は、必ず当たる。


 それらの事実が示すのは……。


「……当主さま」


 掠れそうになる喉に、一度唾を飲み込んでから美咲はゆっくりと口を開いた。落ち着いたとはいえ今にも震えそうになる声に、改めて過ぎ去った衝撃の大きさを思い知らされる。


「…………」


 当主と目が合う。無言で先を促す瞳の奥に、美咲と鳴海をを案じる色が見えた。


 一見して何も変わりない様子の当主。その胸の内には、決して表に出ることのない焦燥や動揺が隠されているのだろうかと、思考の片隅で思いつつ、美咲は続けた。


「申し訳ありませんが、少し外に出させて頂けませんでしょうか」


 疑問形ではあるが、返事は一つしか求めていない言葉。視線を一度鳴海に遣って、彼がかすかに頷いたのを確認してから、再び当主を見る。


「な……無礼ですぞ美咲どの! 間もなく会合が始まるというのにそのようなこと、」


 声を上げた壬杉の当主を、絢斗は視線は美咲と合わせたまま手で制した。黙った壬杉に一瞥もくれることなく、ただじっとお互いをうかがう。


「……行きなさい」


 何を感じたのか、とは問わずに、絢斗はそう言った。


「ありがとうございます」


 美咲もそれだけを返すと、すっと席を立った。そのすぐ後を、鳴海が追う。


 二人が廊下に出て、鳴海が襖を閉じた瞬間。


 予感に突き動かされるままに、美咲は駈け出した。


「美咲さんっ!」


 驚いたような鳴海の声が聞こえたが、美咲はそのまま足を進める。……予感から生まれた不安と焦燥が、早く早くと自分を急かす。


 明確な目的があるわけでもない。だが、あそこにいてはいけない気がしたのだ。動かなければならない、立ち止まってはならない、と。



 外で何かが起きると――あるいは起きていると――あの予感は告げたのだから。



 途中で誰かとぶつかりかけたが、それでも足は止まらなかった。


「っ、失礼っ!」


 美咲を追う鳴海は、短くそう告げて美咲が当たりそうになった人物――空嶺の当主の脇を通り抜ける。


 空嶺当主と空嶺の術師の姿を認識はしたものの、歪な予感に根拠のない焦りを覚えているのは鳴海も同様であり、美咲を一人にするわけにはいかず、無礼は承知の上でそのまま走り去った。









 ――――二人と擦れ違った空嶺の当主と術師の目が、硝子玉のように虚ろであることに気付いたものは、誰もいない。



地の文ばかりで読みにくくてすみません……。


作者もいまいち文が理解できていないので、前話と今回はスルーしてかまいません。




……そろそろ物語が一気に動く予定です。



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