5―3 衝撃
今回の話と次話はあまり納得がいかないので、時間が出来次第書き直す可能性が高いです。
正直意味が分からないと思いますが、わからなくてもあまり問題ありません。
「……その、美咲さんの心当たりって、どなたなんですか?」
やがて、ゆっくりと発された鳴海の問いかけに、美咲は言葉少なに、聞こえてくる雑音にまぎれるような声で答えた。
「鳴海も知ってる人だよ」
「……え?」
思いがけない言葉に、鳴海は思わず声を漏らす。
「……知ってるっていうのはちょっと違うのかな。私も鳴海も、直接会ったことはないから。存在を知ってる、っていうのが近いのかも」
鳴海が何か言うより早く、そう付け足してから美咲は言った。
「……煉賀芙美。――――綾、……絢文の母親で、絢文を生んだ時に亡くなった女性だよ」
「それ、は」
その先にどんな言葉が続くはずだったのか、美咲が知ることはなく。
どんな言葉を続けるつもりだったのか、鳴海自身が認識することもなく。
二人の思考は異常な衝撃と乱雑な雑音と歪な感覚に支配された。
聴覚が戻る。
……ひどい耳鳴りと誰かの声がする。
視覚が戻る。
……かすんだ視界に覗き込んでくる影が映る。
感覚が戻る。
……背筋を凍らすような嫌な悪寒が止まない。
――――これ(・・)は、予感だ。
実際に何か異変があったわけではない。先程の衝撃も雑音も何もかも、全てが錯覚だ。
それなのに、そうだと頭では理解しているはずなのに。精神が、魂が、その予感を訴えている。肉体に影響を与えてしまうほどに、本能が叫んでいる。
――――コワレルウシナウアブナイダメダナクナルダメダナクナルコワレアブナイダメナクナダメダメダメダメ!!
世界に鮮烈な赤色が、閃き――――
「美咲ちゃん!! 鳴海くんっ!!」
滅多にない揚羽の動揺混じりの叫びに、二人の思考は一気に現実へと引き戻された。
……突然のことについていかない頭が、どうにかして現状を認識しようとする。
美咲も鳴海も、いつの間にか畳に倒れこむようにしてうずくまっていた。冷や汗でべたついてひどく気持ち悪い。ゆっくりと震える身体を起こして顔を見合わせるも、お互いに浮かぶのは困惑の表情のみで、何がどうなったのかまったくわからない。
「……大丈夫、二人とも?」
揚羽の心配そうな声がすぐ傍で聞こえ、ゆっくりと背中をさすられる感覚に美咲はそちらに振り向いた。
すると文字通り目と鼻の先に揚羽の顔があり、一瞬ぎょっとしたものの、いつも通りの柔らかな笑みにようやく力が抜けて大きく息を吐く。……徐々に身体の震えも収まってきた。
鳴海も落ち着いたのか、子供のように背をさすられていることに気恥ずかしさを感じたようで、揚羽から思い切り視線を外しているのが見える。
今度こそしっかり辺りを見ると、平常通りの篝と壬杉が訝しげな顔でこちらをうかがっているのが分かった。
今の予感を感じて平気でいられるのかと思っていたところへ、揚羽が美咲と鳴海にだけ聞こえるように耳打ちする。
「今の、ね。私たちにはほとんど感じなかったの」
その言葉に、美咲は耳を疑った。あれほどの強い衝撃的な予感を受け取らないことなどありえないはずなのだ。
「それは、……当主さまも、ですか?」
鳴海のその声を認識した瞬間、反射的に当主へ振り向いていた。続けて鳴海の目も当主に向かう。
答えはわずかな頷きひとつ。だが、それだけで十分だった。