5―2 懐古
ぐちゃぐちゃな上にすごく難産な文章でした。
あとから編集し直すかも知れません……。
「ねぇ……、本当に綾と連絡つかないの?」
だが、しばらくして場の空気に耐えられなくなったのか、美咲が小声で鳴海に話しかけた。幸いと言っていいのか、篝と壬杉は本人がいないことをいいことに散々綾への侮蔑と侮辱の言葉を言い続けており、こちらに気付く様子もない。
鳴海は一瞬辺りを見渡し、自分たちに注意が向いていないことを確認してから、声をひそめて言葉を返した。
「……ええ、昨日調査のあとに会ったっきり、電話もメールの返信もありません。揚羽さんも、何故会合に来ないのかまでは聞いてないそうで……。美咲さんの方にも連絡はないんでしょう?」
まあ、何かあったとしても俺じゃなくて美咲さんに連絡するでしょうけど。と、鳴海がやや苦さの滲んだ声音で続けたことに気付く様子もなく、美咲はただ沈鬱そうに頷く。
その姿に鳴海は気付かれないように静かに溜息をつくと、ふと眉をしかめそのまま何か考え込むように口を閉ざし、腕を組んだ。
やがて視線を美咲に戻し、わずかな逡巡らしきもののあと、ようやく話しかける。
「……そういえば美咲さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「……何?」
そう言う美咲の声は、やはり暗い。
別に今聞くことでもないんですけれど、と彼にしては歯切れが悪い前置きをして、鳴海は先程より一層声をひそめた。
「あの、――――『フミ』って人、知りませんか?」
「え?」
その質問に、美咲はうつむきがちだった顔をいきなり上げて隣に座る少年に向けた。その顔には訝しげな表情が浮かんでおり、この状況に関わりない質問に疑念を抱いているように鳴海には見えた。
鳴海は突然すぎたかと、慌てて言葉を付け足す。
「すみませんいきなりっ! ……あの、さっき連絡がないっていうのを考えてたときに、少し昔のことを思い出して気になったので……」
「……昔のことって?」
問い返す美咲の目に浮かんだ驚愕の色を訝しげに思いながらも、暗さが薄れたことにわずかに安心した鳴海は、面白い話じゃないですよ、と前置きしてから口を開いた。
「あの……俺がまだ小学生だった頃――――羽斑に修行で預けられていたときなんですけれど、週に一回くらい、なんの前触れもなく現れて一緒に稽古を受けていた奴がいたんです。俺と同い年くらいで、いつもちょっかいかけてきて……。俺、いつも大人に混じって訓練させられてて、年が近い奴なんてほかにいなかったから、よく話したり試合の真似ごとしたりしてた」
言葉を止めた鳴海を、美咲はじっと見つめ、先を促す。
「……それで?」
「…………ある日ソイツがこなくなったんです。最初はいつもの気まぐれかと思って気にしてなかったんです。けど、ひと月たっても、ふた月たっても一度も来なくて。羽斑の家の人はそんな奴知らないって言うし、いつもむこうからやって来てたから連絡先なんか知らなくて……。名前だってアイツが自分で『フミ』って名乗っただけで本名かもわからないし……。そのとき初めて、俺はアイツのことなんにも知らないって気付いたんです」
独白に近い、短い文の連なり。だからこそ、そこには幼いまま整理しきれていない感情が垣間見えた。
寂しさ、悲しさ、怒り、親しみ、疑念、思慕、後悔など、さまざまな想いが混ざって溶けて。……きっとそのどれもが、かつて『フミ』に向けられたものだったのだろう。
『フミ』に会いたいと、何故か今になって鳴海は思ったのだ。
「……それから、連絡は?」
「一度も。しばらくは探してたんですけど、手掛かりもないし、修行に追われているうちに忘れて行って……。本当についさっき、思い出したんです」
「……」
「美咲さん?」
静かに目を閉じた美咲だったが、鳴海が声をかけるとすぐに視線を彼に戻す。
「――――『フミ』って名前に、心当たりはあるよ」
「! じゃあ、」
「でも、鳴海の言ってる人とは違うよ。……その人、たぶん男の人だよね?」
「……ええ」
声を出しかけた鳴海を制するように言葉で遮った美咲は、確かめるように問い、その返事を聞くと小さく呟いた。
「じゃあ、絶対に違うな……。まあ、女性でも違うに決まってるけど」
それきり黙りこんだ少女に、鳴海はどうしたのかと顔を覗き込むが、先程までとは違う複雑な感情が浮かんでいるように見える。
篝や壬杉の罵声が雑音として場に広がる中、しばし、二人は何も言わなかった。
お読みくださりありがとうございます。
今まで通りに1000文字~1500文字前後で1話投稿するのと、一区切りまで書いてまとめて投稿するのって、どちらのほうがいいんでしょうねぇ……。
後者は投稿スピードがとんでもないことになるの請け合いですが……。