5―1 悪意
お久しぶりです。
というか久しぶりすぎますね。お待ちくださっていた読者の方々、大変申し訳ありませんでした。
無事受験も終わり、少しずつ連載を再開したいと思います。
とはいえ、今まで通り超不定期更新です。なるべく一定のペースで投稿できるように頑張ります。
一年以上のブランクの間に、文章の書き方が変わっていたり、読みやすいよう改行を増やしていたりしますので違和感があるかもしれませんが、ご了承ください。
長々と失礼しました。これからも拙作「深淵の王」をよろしくお願いいたします。
三月三十一日の日暮れ、煉賀の屋敷には大勢の人々が集まっていた。
煉賀家では毎月、月の最後の日に本家、分家、情報部などの代表者が集まり、会合を開くのが慣わしである。それは今月も例外ではなく、煉賀当主の絢斗、情報部の揚羽、分家である篝と壬杉の当主、そして美咲と鳴海が、すでに会合の場である煉賀家西の大広間に集まっており、いつもの座席に座っている。また、この後次々にやってくる予定の術師たちを迎えるために大きく開かれた座敷は、普段と違って寒々しいような印象を見る者に与えていた。
特に、今回は現在進行形で起こっている奇妙な現象を解決するために、協力者である空嶺の当主・術者を招いて行われることになったため、いつも以上に大規模な会合となっている。そして、空嶺の人々の席として、いくつかの座席に普段と色の異なる座布団が置かれていた。
座布団の色は‘空‘嶺にふさわしい、鮮やかな蒼。……だが、それが何故か美咲にはひどく気味が悪いように思えて仕方がなかった。
そして美咲と鳴海を含めた煉賀家の人々の座布団はいつもと同じ深い朱色。なのに、見慣れたはずであるその赤が異質なものに感じられ、どこか言いようのない不安を煽っている。
それが気のせいではなかったことを知るのは、もう少し、先のことであるのだが。
現在の時刻はようやく日が沈もうかというところで、夜に行われる会合にはまだ早い時刻にもかかわらず、こうして当主たちが集まっているのには理由がある。
「――というのが一週間の調査結果です。総括して申し上げますと、今の時点において“歪み”以外の異変は見受けられませんでした」
それは会合前の調査結果等の報告をするためであり、同時におおまかな状況確認を行うためであったはずなのだが、揚羽が報告を終え、当主の前から音もなく退くと同時に声を上げたものがいた。
「これではっきり致しましたな」
分家、篝の当主である。
勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、篝は言葉を続けた。
「初日の不可思議な異形の出現を探知できなかったことに加え、その原因さえもわからず、ただ毎日の“歪み”の出現場所と時間を調べるだけ。‘協会’精鋭の術師が聞いて呆れますな。たかだか探知術を使えるだけの若造を寄越すなど、我らを侮辱しているとしか思えませぬ。そうでしょう?」
同意を求めるようなその問い掛けに、壬杉の当主が大きく頷く。
主語が明示されていない発言。だが、その悪意と蔑意を隠そうともしない言葉がだれを指したものなのか、言われずとも理解できてしまうのが嫌だった。
それらは確実に――――睦月綾に対して放たれた言葉であったから。
そしてその本人はこの場にいない。それだけでなく、会合も欠席するとあらかじめ揚羽を通して連絡を受けている。
「っ……」
彼らの発言と態度に憤慨し、思わず口を開きかけた美咲を、とっさに鳴海がその手を掴み制止した。美咲は睨むような目で鳴海を見たが、鳴海はただ彼女を見つめ返し、ただ静かにかぶりを振る。
……わかっている。今下手に綾をかばえば、さらに彼の印象を悪くしてしまうだけでなく、自分も敵視される可能性があることは。しかし、だからといって黙っていられるはずもない。
が、そのことを鳴海に当たっても意味がないのだ。美咲はそっと溜息を吐くとともに無理矢理気を静め、悔しげに黙り込んだ。