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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
四、平穏な非日常
70/90

間章




 太陽が頂点に昇っているというのに、薄暗く細い路地を二つの人影が歩いている。

「あーあ、あいつ仕留め損なっちゃった。いい感じだったのに」

 片方の影がそう言いながら片手でもてあそんでいるのは、黒光りする鉄の塊――拳銃。影は掌に収まるほど小型のそれのトリガー部分に指の入れ、くるくると回した。因みに、もう片方の手にはビニール袋を持っている。

「……そんなこと言って、今まで一度もうまくいったことなんてなかったじゃないですか。それよりも、誰が見てるかわかりませんから銃はしまってください」

 呆れたように長身の影が言った。その左手にはもう一つの影と同じように物が大量に詰まった白いビニール袋が下げられており、いかにも買い物帰りといった風情だ。だが、単にそれだけの人物が犬猫しか寄り付かないような路地裏を通っているはずもなく、相方の行動を咎めはすれどその手にある物に驚くことはない。

「誰か……ねぇ」

 そう呟いて、影はもう一度くるりと回転させた銃を袖の中に納めた。

「それって――」


 パンッ


「――こんなやつ、とか?」

 いつの間にか、小さい方の影の右手には先程のものより一回り大きな拳銃。右腕は天に振り上げられており、銃口からはわずかに硝煙が漂っている。

 やがて腕を下ろし、影が芝居がかった動作でふっ、と銃口に息を吹きかけたとき、ひらりと宙から舞い降りたものがあった。

 それは焼け焦げた穴の空いた、長方形の紙片。朱色の文字と紋様が描かれた……式神の呪符。

「こんなものでボクたちを見張ろうなんて、舐められたものだよねぇ」

「そうですね。私はともかく、近に勝とうなんて地球が一度滅んでもまだ早いと思います」

「……いや、それは過大評価すぎるから」

 さも当然、という風に相方が言うので、小柄な影は思わず苦笑し、そしてブーツの底で呪符を踏みにじると、紙片は炎を上げ一瞬で燃え尽きて消えた。

「……芸が細かいことで」

 ふん、と鼻で笑うと、興味をなくしたのかさっさと歩き始めた影に、もう片方も紙片が消えた場所に目を向けることなく後を追う。二つの影が狭い道を並んで行くと、しばらくして路地を抜けた。

「それにしても、面白い人たちだったね。色々と」

「色々、ですか。具体的にはどこが面白いと思ったんです?」

 日差しを黒髪で反射させながら、長身の影――成巳が尋ねる。もう一人――近は金の髪を跳ねさせながら振り向き、笑った。

「色々は色々(・・)だよ。話には聞いてたけど、予想以上に楽しそうだし」

 いつもよりかなり気分が高揚しているらしく、今にも歌を口ずさみそうな近に、成巳はため息をついた。

「じゃあ、今回は協力するんですね」

「……まあ、ね。借りがあるし、ボクも気に入っちゃったしね」

 現実に引き戻されたのか、近はやや面倒そうに応える。

「それに……」

「それに?」

 首を傾げた成巳が見たのは、意地の悪い笑みを浮かべた近。彼は右手で銃の形を作ると小さく撃つ真似をして、言った。


「雑魚が調子に乗ると痛い目に合うって、教えてあげなきゃね」





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