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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
四、平穏な非日常
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4―16 退場

「……私たち、そろそろ失礼しますね。お邪魔してすみません。鳴海さんに……えっと……」

 少し困った様子の成巳に、陽方が美咲の隣にいた此方を呼びながら言った。

「空嶺陽方です。こっちは、弟の此方」

「陽方さんですね。……案内、本当にありがとうございました」

「どういたしまして」

「……成巳、帰るんでしょ? 先行くよ?」

「あ、今行きます! では、失礼しました」

 いきなりそう言って歩き出した近を、成巳が一礼したあとに追いかけていく。それを半ば呆然と見送っていた美咲は、ふとあることを思い出した。

「あ、あのっ。近さんっ!」

「……何」

 先程とは一転して不機嫌そうな近が、振り返ることなく立ち止まる。

 そんな近の様子に美咲は一瞬ためらいを覚えたものの、ゆっくりと口を開いた。

「……最初、私たちに声を掛けた時のあれは何だったんですか? あの、頭に直接響いてくるような……」

「あー、あれか」

 そう言うと近は顔だけを美咲に向け、いたずらっぽく口元に右手の人差し指を当てる。

「今は秘密。自分で考えてみなよ。またすぐに会うことになるだろうから、その時までの宿題」

 まあ、と彼は続け、

「どうしても答えが知りたかったら、そこの超絶女顔な男に聞いたらいいよ。ま、教えてくれるかは別問題だけど」

 ねぇ? という問いかけは誰に向けられたものか。確認するまでもなく、自然と近と成巳を除いた全員の視線が超絶女顔と言われた人物へ集まる。

 だが本人はそれらをスルーし、何事もないよう口を開いた。

「ところで真岸、こんな所で本当に(・・・)油を売っていていいのか?」

「え? 今何時?」

「午後一時三十二分」

 きょとんとした近は、端的な綾の答えに一瞬だけ考えたあと眉を寄せた。

「あー、確実にやばいなあ」

「ですねー……」

「あの、どうしたんですか?」

 何やら深刻そうな表情の近と成巳に、美咲が不思議そうに尋ねる。だが二人はなんでもないと口を揃えるだけで、益々美咲や鳴海たちを困惑させた。

「本当になんでもないから。じゃあ急ぐからまたね、皆さん」

「改めて、色々と失礼しました。では、また」

 そう言ってあっと言う間に視界から消える二人。ものの数秒というその速さも含め、まるで嵐のようだった出来事に、彼らが走り去った方向を約一名以外が呆然と見ていた。

 真っ先に我に返った鳴海が皆の気持ちを代弁するかのようにポツリと呟く。

「……何だったんだ、一体」

 が、綾は彼を一瞥し、あっさりと言い放った。

「気にするな」






「「……って、気にしないわけがないでしょう(だろう)が!!」」

 一瞬遅れて響き渡った美咲と鳴海の息のあった怒声に、綾は耳を塞いだ。だが美咲たちに言葉を返すつもりは毛頭ないらしく、素知らぬ顔を決め込んでいる。

 そんな全く相手にされていない二人と、全く相手にしていない一人からやや離れた所で、此方は頭を捻っていた。

 皆が当たり前のように会話していたのでタイミングを外して聞けずじまいになっていたのだが、

「……綾さんって、あんな方だったっけ?」

 と、午前中の印象とのギャップに戸惑う少年に、隣に立っていた彼の兄が苦笑しながら言った。

「気にしたら駄目だと思いますよ。……たぶん」

「……そうですね」

 触らぬ神に祟りなし。何故かそんな言葉が脳裏に浮かんだ此方だった。




中途半端感がかなりあるのですが、第四章はこれで終わりです。予定よりかなり長くなった上に意味不明な部分が多く、いまいちまとまってませんが……。

次に間章を一つ挟み、その後が最終章の予定です。今までの章よりさらに長くなると思いますが、どうか最後までお付き合い下さいませ。


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