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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
四、平穏な非日常
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4―15 驚愕




「すみません、本当に……」

 美咲がそう言い、鳴海も気まずそうに頭を下げる。

「いいですよ。いつものことですし、気にしてませんから」

 微笑んで返す成巳に、隣の少年が幼さの残る眉間に皺を寄せた。

「成巳が良くてもこっちが良くないよ。だからいつも女物着てって言ってるのに」

「だってスカートとか動きにくいじゃないですか」

「スカートじゃなくても女物はあるから! そのセーターも、ズボンも、靴だって全部男物でしょ?」

 びっ、びっ、びっ、と成巳の服を上から順に指し示しながら、少年が顔をしかめる。対する成巳は言いにくそう口を開いた。

「……身長的にほとんど、ない、から」

「…………え、あ……ごめん」

 少年が謝ると同時に、二人がずーん、と沈み込む。心なしか二人の周辺が暗くなった気がした。

「り、綾! どういうことなのこの状況!」

「……とりあえず、あいつらを見比べてみろ」

 小声で訪ねる美咲に同じく小声で返し、綾は成巳を指差す。

「成巳の身長は、確か百七十五センチ。で……」

 少年を指差し、

「あっちの金髪が……百四十七、だったか? お互い身長がコンプレックスらしい」

「「え」」

 美咲と鳴海が二人をまじまじと見る。だが……

「成巳さんは確かにそれぐらいだけど……え、いやあの人そんなに低くないでしょ。少なくとも百五十半ば……」

「シークレットブーツだろ」

「それでも年齢相応だろ。低いってほどじゃ……」

 三人がぼそぼそ話している間に少年の雰囲気が徐々にピリピリとしたものに変わっていく。ちなみに美咲と鳴海はショックが大きかったのか気付いていないが、綾は平然としているので分かって言っているようだ。

「まあ、チビで童顔だからそう見えるかもな。でもあいつは――」

「チビ童顔言うなって言ったよねぇ……」

 ゆらりと少年が綾たちに近付いていく。ようやく気付いた美咲と鳴海が改めて少年を見ると……般若がいた。

「それにさ、だれが年相応の身長だって?」

 やや幼いながら整った顔を歪めながら、少年が叫ぶ。

「ボクは――


 ――十九歳だ!」


 再びの静寂。そして再びの絶叫。

「嘘?!」

「……本当に?」

「同い年くらいかと……」

「此方より少し下かと……」

「相変わらずの見た目詐欺コンビだな」

「あはは……。あ、因みに私は二十歳です」

「君ら……成巳以外全員死にたいの?」

 上から美咲、鳴海、此方、陽方、綾、成巳、そして今にも青筋が浮かびそうな少年が言った。

 しばらくして綾が彼を指差し、

「これは真岸だ」

「これ言うな」

 成巳に宥められながら彼は憮然とした態度で名乗る。

「……真岸チカ。チカは距離の近い一文字。……で、睦月綾。この失礼な人たち誰?」

 今更だが、自己紹介をしていなかったことに気付き、美咲は慌てて一歩前に出て口を開いた。

「えっと……さっきはすみません。私は煉賀美咲と言います」

「へぇ、君が煉賀美咲?」

 驚いたようにじっ、とこちらを見詰めてくる少年――近に、美咲はややたじろぐ。

「そうですけど……」

「ふぅん。じゃあ君が煉賀鳴海か」

「……ええ、まあ……。というか、何故名前を?」

 どうも自分より年下にしか見えない近に“君”呼ばわりされ、鳴海は複雑そうに応えた。だがそれをあっさり無視して、近は小さく何かを呟く。

「へぇ、そうか……君らが……」

「あの、何か?」

 鳴海が尋ねると、近は笑って言った。

「ん? 何でもないよ」

「……もう、近」

 クスクスと笑い続ける彼を、成巳が咎めるように呼んだ。が、やはり笑うのを止めない。


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