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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
四、平穏な非日常
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4―12 迷惑




 時間は少しだけ遡り――

 正午を回り、調査が一段落ついた美咲たちは、食事をとるためにとあるショッピングモールにやって来ていた。

 美咲、綾、此方の班に振り分けられたのは街の中心部の調査で、先ほどまでは“歪み”が一度でも発生したことがある路地裏や袋小路、工事現場やビルの屋上をしらみつぶしにチェックして回っていた。おそらく街の様々な場所を動き回っても目立ちにくい年齢である三人だからこそそれが割り振られたのだろう。が……

「あーもう、疲れたー……」

「ですね……」

「ほら、すぐそこに長椅子がありますから。頑張ってくださいよ二人とも」

 猫被り状態の綾に支えられるようにして美咲と此方はふらふらと歩き、中庭らしき場所の長椅子に座らされると思い切り脱力していた。

「……それもこれもお前のせいだからな、美咲」

「……なんで私のせいなのよ」

「お前の友人数名に追い掛け回されたのは確実にお前のせいだと思うんだがな」

「う……ごめん」

 此方が疲れで半分意識を飛ばしているのをよそに、美咲と綾は小声で話す。会話の内容にも出たように、三人……主に美咲と此方が疲れているのには訳があった。

 つい数分前……三人は美咲が昨日誘いを断った友人たちのグループに出くわしたのだ。だが、ただ出会っただけなら問題はない。美咲ひとりが出会っただけならば。

 が、今は誰がどう見ても美人に見える綾と、やや幼いながらも整った顔をしている此方、そして凛とした美少女である美咲が一緒にいるのだ。

 常に街を歩くだけで周りから見られている三人だったが、綾以外の二人に自覚が欠片もないのが良かったのか、特に誰かに話しかけられることもなかった。だが……それは見知らぬ他人だからであって、美咲の友人(・・)たち、特に女性陣は綾と此方に遠慮なく話しかけていき、男性陣は美咲に憧れの目を向けたのだった。

 慌てて逃げ出したものの、術を使わずに意外としつこかった彼らを振り切るのに手間がかかり、美咲と此方は疲れきっていた。……ただし、綾だけは何時の間にかどこかへ雲隠れしていてついさっき現れたばかりだったが。

「……うう、絶対あとから唯音に責められるよ……」

 友人たちからの電話やメールがひっきりなしに来るために電源を切った携帯を見つめながら、美咲がぼやいた。皆に合ったときに一番すごい形相で問い詰めてきた少女――唯音は、昨日のメールでの断りが嘘だったと思っているだろう。彼女は美咲の家のことを知ってはいるが、仕事の時は鳴海と一緒なのが常だったから、色々疑われているに違いない。

「……こんなことなら、どこで遊んでるのかだけでも聞いておけば良かった……」

 そうしたら会わないようにする事もできたのに、と嘆きながら、美咲はどうやって友人たちを納得させるか考えることにした。

「ほら」

「え?」

 ひょい、と突然手元にスポーツドリンクの缶がが飛び込んできた。顔を上げると、同じ缶を持った綾が立っている。隣では美咲と同じように缶を持った此方が驚いて綾を見つめていた。

「飲んでください。奢りますから」

 微笑んで言う綾に、此方が素直に

「ありがとうございます」と言って一礼してからプルタブを開ける。美咲が不審げに見返すと、笑ったまま彼の眼が

「早く飲め」と睨んできたのでとりあえず飲むことにした。

「……ありがとう」

「どういたしまし――」


《ふぅん。誰かに物を奢るなんて、随分お優しいことで》


 その《声》が頭の中に響いた(・・・・・・・)瞬間、綾の表情が一変した。

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