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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
四、平穏な非日常
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4―10 警告






「え! 陽方さんってほかに兄弟がいらっしゃるんですか?」

「ええ、高校一年生の弟が一人。……意外ですか?」

 美咲が綾と此方を連れて逃げるように立ち去ってから数時間が経ち、鳴海と陽方は街外れの廃工場を歩いていた。

 半ば仕方なく陽方と共に割り当てられた範囲の封印を確認し強化して回っていた鳴海だったが、今では移動中に陽方と話を交わしている。基本的に人付き合い……特に会話が苦手な鳴海にとって、これはかなり珍しいことだった。

「いえ、意外というか……昨日家に伺ったとき、一度も聞かなかったので驚いてしまって。……すみません」

「ああ、確かに。お話していませんでしたね……。私が言っていなかっただけですから、謝ることはないですよ」

 そう言いながら陽方は廃工場を出て、かつての工場地帯に面した海に近づいていった。その後を鳴海が追い、やがて二人は海岸に沿うようにして並んだ。

 鳴海が自分よりやや低い位置にある陽方の顔を覗き込むと、彼の目は海の向こうを見据えているように見えた。そして陽方は小さく、だがはっきりとした声で言った。

「もう一人の弟と私は本当の兄弟ではないんですよ」

「……え」

「正確に言うと私と此方が実の兄弟で、もう一人は父方の従兄弟にあたるんです。しかも、どうやら私は嫌われているようで……彼、今月の始めに中学卒業してすぐ家を出て、高校の寮に入ってしまって。心配ではあるんですが……いつも避けられてしまうんです」

 困ったものですよ、と苦笑する陽方を見て、鳴海は思わず口を開いていた。

「……同じですね」

「はい?」

「え、あ、いえ…………美咲さんとその……弟さんが同じような立場だな、と思って……」

「……ああ、そう言えば美咲さんは煉賀の御当主の姪にあたるんでしたね。…………なら、私の立場に当たるのは――絢文さんですか」

「……そうなりますね。あいつが美咲さんをどう思ってるかなんて、想像もつきませんけど」

 突然す、と陽方は微笑みを消し目を細め、鳴海に向き直る。その瞳には――どこか、ぞくりとするものが含まれている気がした。

「――鳴海さんは、あの方が絢文さんだと思っているのですか?」

 あの方、というのは綾のことを指すのだろうか? 陽方の様子に圧倒されるままに鳴海は曖昧な言葉を返す。

「そ、そういう訳ではないですけれど……」

 今のところは、と小さく付け足すと、陽方は厳しい表情を見せた。

「父は……空嶺当主ははっきりと言いませんでしたよね。ですから、これはあくまで私の独断です。ですが……


――睦月綾を信じてはいけません。


私はあなた方に傷ついてほしくない。だからこれは……警告です」

 注意や忠告ではない、警告。驚愕と不審さが混じった顔を浮かべる鳴海を一瞥したあと、陽方は再び視線を海へ投げた。

「何故、といった顔をしていますね」

「…………」

「――私と絢文は……友人だった(・・・・・)んですよ。


――彼は六年前に、死にました」


「……そん、な――」

 鳴海はとっさに記憶を辿る。だが……自分は、そんなことは知らない(・・・・)

「――そ、そんなこと、美咲さんや当主さまは一言も! 友人がいたことだって……!!」

「美咲さんは、あの日(・・・)のことを忘れています。……煉賀の御当主は、隠しているのでしょうね。あのときあの場所にいなかったあなたに、知られては困るから」

「あの、日……?」

「そう、あの日…………六年前の三月三十一日。絢文が死んだ日。何が起こったのか…………知りたくありませんか?」

 真剣な声と表情、冗談を言っているようには見えない。

 だが、当主が何かを隠している? 美咲が何かを忘れている? 自分が知らない<何か>が……六年前に起こっていた?

 混乱した頭のまま、鳴海が口を開こうとした時――


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