4―8 見学
「……どうしよう。この状況」
ぽつり、と空嶺此方は呟いた。
美咲と鳴海が空嶺家を訪ねてきた翌日の日曜日。此方は陽方と共に煉賀家にやって来た。まだ実践訓練を積んでおらず、正式な術師として認められていないので任務ではないが、良い機会だからと父――空嶺当主により見学として参加させてもらえることとなったのだ。
実は、このことに此方は内心とても興奮していた。
理由は二つ。一つは守護十二家をまとめる、総合的な実力において一番だとされている煉賀の術を見ることができること。
空嶺は結界に属する呪術に特化した家系である。
結界術を駆使した守り、もしくは隔離に置いてはトップクラスではあるものの、攻撃系統の術は普通よりやや劣るのが空嶺に属する術師なのだ。剣術を極める代わりに呪力の総量が少ない羽斑家も似たようなもの、つまり何かを特化すればするだけどこかを捨てることになるのが呪術師だと言える。現に、聞いた話では守護十二家のうち空嶺、羽斑を含めた十一家はそのような感じだったらしい。
しかし、煉賀家だけは個人の得意不得意はあるものの、長い歴史の中で全ての分野に磨きをかけて来たという。『結界術では私たち空嶺に劣り、剣術では羽斑に劣り、呪いにおいては睦月に劣り、符術においては成宮に劣り、何においてもトップと言える分野はない。だが、守護十二家で最も強いのは煉賀だ』とは先代空嶺当主であった祖父の言だ。
そこまで言われる人々と技術に、呪術師として興味が湧かないわけがない。と此方は思う。
そしてもう一つ。此方にとってはこちらが最大の重要事項なのだが……
「納得できません!」
「だーかーらー、仕方ないって言ってるでしょ!」
若くして呪術師としての頭角を表し、煉賀のトップクラスにいると言われている人物――煉賀美咲と煉賀鳴海。昨日初めて会って、此方の憧れとなった二人が……喧嘩をしていた。
現在は朝8時。日曜ということを考えれば早いと言える時刻だろうが、今煉賀家の門周辺に残っているのは美咲、鳴海、陽方、此方、そして――‘協会’の術師であるらしい綾という人物のみ。他の煉賀と空嶺の術師は既に全員出払っている。
ちなみにチーム分けは美咲と綾と此方、鳴海と陽方となっていた。だが、美咲たちの言葉を聞く限りどうやらそれが喧嘩の原因となっているようだった。
「だいたいなんであんな奴が美咲さんと同じ班に……」
「当主さまが決めたんだから私に言わないでよ。それに、一応面識があるからって陽方さんと綾を二人で組ませるわけには行かないんだから」
よく聞いていると喧嘩というより何故か怒っている鳴海を美咲が宥めている、という様子だと此方は気付いた。とはいえ雰囲気は喧嘩と変わらず、一触即発的な状況が続いており此方にはどうすることもできない。兄は微笑んで二人を眺めているだけであるし、美咲と鳴海を止めるものはいない。……よくわからないもう一人を除いて。