4―6 錬金
「単刀直入に言うけど、鳴海に渡したあの赤い石って何なの?」
その質問に、綾は何事もないように答える。
「……賢者の石だと言わなかったか?」
あまりにあっさりした返答に、美咲はやや眉を寄せた。
「聞いたよ。けど、あれは賢者の石です。はいそうですか。なんて納得できないよ普通。本物の賢者の石がこんな所にあるわけないでしょう?」
それは誰もが求める奇跡の石。鉛を金に変える、存在そのものを変質させる、錬金術師が生まれた理由。そんな物がここにあるとは思えない。
「……まあ、確かに本物ではないな。とは言え、それ以外の何かという訳でもない」
「え、……じゃあ、何?」
わけがわからない、といった表情の美咲に、綾は淡々と答える。だが、その内容は全く普通ではなかった。
「あれは賢者の石の模造品だ」
「模造品……?」
「ああ。本物の賢者の石の力は鉛を金に変えるものだが、この模造品は物質を変化・修復することができる」
「……嘘、そんなものあるわけないでしょ?!」
我に返った美咲が叫ぶ。対照的に、綾は落ち着き払って言った。
「ある。賢者の石は存在する。だからこそ模造品は存在しうる。……あいつの刀は直ったんだろう?」
「う、うん」
あいつ、とは鳴海のことなのか。美咲は戸惑いながらも頷いた。
「直った刀に違和感はなかったか?」
言われるままに美咲が自分の記憶を探ると、それはすぐに見つかった。
「そう言えば……鳴海が刀が軽いって」
「それが何よりの証拠だ」
「それは、そうだけど……。じゃあ、変化ってどんな?」
自分を落ち着かせるために、純粋にわからなかった部分を問う美咲。だが、ここでも平凡な答えが返ることはなかった。
「刀に使う金属なら、妖精銀になるだろうな」
「ミ――っ?!!」
妖精銀。それは存在しないとされている金属。桁外れの強度と力を宿すもの。だが実際は存在しないのではなく、常人が見つけられるような場所にないだけなのだ。
妖精は自然を操るものであり、その力は絶大だ。だが、妖精の力が宿る金属は銀しかない。その数は希少という言葉にさえ届かない。
なのに、ただの刀をそんなものに変化させるということは――
「まあ、つまりこの模造品は妖精の力の塊ってことだな」
至極自然に、綾は言った。
「……な、なんでそんなもの持ってるの?」
「貰った」
「もらったぁっ?!」
「前に仕事で錬金術師に会った時にな」
「……でも! そんな凄いもの鳴海にあげて良かったの?」
そんな物を普通に他人あげるという神経が美咲には計り知れない。綾にしてもその錬金術師にしても。
「どうせ使わないからな」
「せっかくの貰い物なのに?」
「錬金術師には多分使わないと言ってあるから問題ない」
「……そういう問題なの?」