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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
53/90

3―19 疑心




「……ねぇ、どう思う?」

「……何をですか」

 やや日が傾いてきた、夕方に近い時刻。二人が空嶺の門から出てすぐ、結界が張り直されたのを見て美咲が口を開いた。

 だが鳴海は疑問に疑問で返すと、くるりと門に背を向けて歩き始める。

 数歩ぶん離れてそれを追う美咲から、憮然とした声が漏れた。

「分かってるくせに……」




 話を終えてしばらくして、力を貸すことを誠一は了承した。その後は原因の調査について話し合い、調査は明日からで、その際に空嶺の術師を数人派遣させることなどが決められ、会談は終わりとなった。

 ……だが、礼を言って立ち去ろうとした美咲と鳴海を、誠一がこう言って引き止めたのだ。

『煉賀の御当主から少し伺ったのですが、現在煉賀には〈睦月綾〉という‘協会’の術師がいて、〈彼〉は御当主の息子の煉賀絢文である、というは本当ですか?』

 それを二人が肯定すると、誠一は難しい顔をした。

『……確信が持てないので言うか言うまいか迷っていたんですが』

『あくまでも推測ということを頭に置いて聞いてください』

『……守護十二家のうち《睦月》の家はもう存在しないことは御存知ですね?』

『そのことからもわかるように、本来〈彼〉が《睦月》である筈がありません。そして、〈睦月綾〉であることも有り得ないんです』

『なぜなら〈睦月綾〉は実在し、既に死んでいるからです。《睦月》の行方不明事件において、唯一死体が残っていた者として』

『煉賀絢文は数年前に行方不明、睦月綾は数年前に死亡。もし〈絢文〉と〈綾〉が同一人物だとしたら、〈彼〉は〈綾〉でも〈絢文〉でもないことになるんですよ』

『わかりにくい言い方になってしまいましたが、とにかく〈彼〉には気をつけてください。本当に〈煉賀絢文〉なら、そんな必要はないんですがね……』






「……俺としては」

 はっ、として美咲が顔を上げると、鳴海は立ち止まることも歩調を緩めることもなく、淡々と帰路を辿りながら言った。

(あいつ)も空嶺の人たちも同じくらい信用できませんし、逆に言えば同じくらいにしか信用してません」

 だから。と前置きして、

「俺は空嶺の御当主の話も、あいつ本人のことも、言われたことを鵜呑みにして信じたりしない。それだけです」

 そう言ったっきり、鳴海は口を閉ざした。



「……ねぇ、それってつまり」

 数分後、黙って後を歩いていた美咲がゆっくりと尋ねた。

「全部疑ってる、ってことなんじゃ?」

「……そうとも言いますね」

 一瞬の間の後、鳴海がとぼけるように言葉を返す。

 その反応を見て美咲は……

「だったらわざわざ難しく言わなくても良いでしょうが! 一言二言で済むようなことを長々と言う必要はないでしょ?!」

「より正確に俺が考えていることを表そうとした結果です。それが偶々言い換えると一言二言になったというだけで」

「なぁにが偶々よ?! さっきの言い方からして確信犯のくせに!」

「……そんなことないですよ」

「なら私の目を見てもう一度言って?」

「……回りくどい言い方でも伝わればそれで良いんですよ?」

「話をそらすなーっ!」

 鳴海がからかいながら逃げ、それを怒りながら美咲が追い、二人は騒がしく夕刻の街中を駆けていった。


 ……ただ、鳴海の言葉によって気が楽にはなったものの一度生まれた疑いを完全にぬぐい去ることはできず、美咲の心の奥には様々な不安が残された。


これで三章は終わりです。

もう少し長い予定だったんですが、わかりにくくなりそうだったんで今回の話で切ることにしました。

四章は短めになると思います。


実は、この三章で全体の折り返し地点を過ぎました。残りは四章、五章、エピローグの予定です。

更新は相変わらず遅いと思いますが、これからも「深淵の王」をよろしくお願いします。

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