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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
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3―17 案内


「え、じゃあお二人は高校に入学するより前から任務についてたんですか!?」

 此方の驚いた声が静かな廊下に響く。

 美咲たちは陽方に案内され、談笑しながら空嶺の当主の部屋へと向かっていた。とはいえ話しているのは美咲と此方ばかりで、鳴海は時折相槌を打ったり話を補足したりする程度、陽方に至っては微笑を浮かべて耳を傾けているだけだったが。

「うん。正確には中3の始めくらいかな。……鳴海が私の護衛についたのもそのときだよ」

「うわぁ、すごいです!」

「そうかな?」

「そうですよ!それに比べてぼくは……実践型の修行はあっても、実際の任務についたことはないですし……」

「早く実践を行ったからって強くなるとは限らないよ。じっくり修行を積んで大成した術師だって沢山いるんだから」

「そう……ですよね!すみません、愚痴を言ってしまって。修行をしっかりして実力を高めておかなければ、できることもできなくなりますよね!」

「そう、それに怪我なんかしたら意味ないからね。慌ててもいいことないよ」

「確かに、美咲さんが言うと説得力がありますね」

「……鳴海、それってどういうこと?」

「言葉のままです」

「なによそれ!」

 ふくれっ面になる美咲を見て、鳴海は呆れたようにため息をついた。

「……一週間前の任務で、怪我したのは誰ですか」

「うっ」

 ゆっくり鳴海から目を逸らした美咲は、此方がじっと自分を見ているのに気付き、視線を宙に泳がせた。

 鳴海の言葉通り、美咲は春休みに入ってすぐの一週間ほど前にちょっとしたミスが原因で怪我をしていた。と言ってもかすり傷程度で、加えて術を使ったのですぐに治ったのだが、心配性の鳴海は事ある毎にそれを持ち出してくるため、美咲にとってはうっとうしくて仕方ない。

 とはいえ、だからといって否定もできないので、余計に反応に困っているのだ。

「……もう、その話はナシ!偉そうに言ってすみませんでした!」

「誰も偉そうとは言ってませんが」

「はいはいそうでしたね!」

 完全にふてくされてそっぽを向く美咲に鳴海は再びため息をつく。

「え、あ、あの、美咲さん?鳴海さん?」

 おろおろと二人を交互に見やる此方。だが美咲はまったく反応を返さず、それを見た鳴海が仕方なさそうに口を開いた。

「気にしないで下さい。いつものことですから」

「え、でも……」

「いちいち気にしてたら身が保ちませんよ。それにこれで仲違いするくらいなら二、三年も護衛してません」

「はぁ」

「……鳴海、今とっても失礼なこと言わなかった?」

「いえ、特に何も?」

 美咲がジト目で見てくるが、鳴海は白々しく答える。それを見て此方が小さく吹き出した。

「もう、此方くん笑わないでよ!」

「あははっ、す、すみません。ただ……」

「ただ?」

「楽しそうだなぁって……」

「どこがー!」

「すっ、すみません!」

「美咲さん……いいかげんに…」

 余計に怒らせてしまい恐縮する此方。こめかみを押さえた鳴海が本気で怒ろうとしたとき、ずっと黙っていた陽方がようやく口を開いた。

「そこまで!喧嘩は駄目ですよ」

「「喧嘩なんてしてません!」」

 息の合った二人の返答に陽方は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。

「でしたら、そろそろお静かにお願いしますね。もうすぐ着きますから」

 そう言われると黙るしかない。美咲と鳴海は互いに別々の方向を見ながら歩き始めた。

 そんな二人を此方は困ったように、陽方は苦笑しながら案内するのだった。


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