3ー15 会話
「あっ、いえ。こっちが早く来すぎただけなのでお気にしないでくださいっ!」
「……美咲さん、文が少しおかしいですよ」
「へっ?」
何のことかとっさに理解できなかったらしく、美咲が一瞬呆けた顔をし、それを見た鳴海がわずかに吹き出した。
「〜〜わ、笑うなぁ!」
「す、すみません!」
顔を真っ赤にしながら美咲が言ったが、謝る鳴海の表情は依然として笑みの形のままで、余計に彼女の神経を逆撫でる。耳まで赤くした美咲は、鳴海の胸ぐらをつかむとがくがくと揺すり始めた。
「ちょ、美咲さ、やめ、いた、痛いで、すっ」
「わーらーうーなぁーっ!!」
「わかっ、わかり、ましたっ、わかりま、したから、やめ、やめて、くだっ、さ……」
「うわあぁぁーん!!」
「えー、美咲さん?鳴海さんが青くなってますよ?」
「あ」
陽方に言われ、美咲が小さく声を上げて腕を止める。掴んでいる服の先を見るとぐったりとした鳴海の顔色は美咲と対照的に薄青くなっており、目が白目を剥きかけていた。
「ごっ、ごめん鳴海!大丈夫!?」
「…大丈夫、大丈夫ですから揺すらないで下さいお願いします……」
「え、あ、ごめん!」
そんな二人をじっと見ていた陽方は、ふっと笑って口を開いた。
「……お二人は仲がよろしいんですね」
「え?あ、あー、仲いいって言うんですかね?」
「……はあ、まあ…」
美咲は少し困ったように笑いながら、鳴海はまだ少し青い顔で頭を押さえながら言った。二人の曖昧な反応に陽方が不思議そうに首を傾げる。
「お二人の会話を聞くかぎり、単なる主従とは思えないんですが……」
「まあ、そうですね。従兄弟どうしだし、それに仲が悪いってわけじゃないですよ」
「美咲さんとは同い年ですから、護衛でも主従って感じはしませんし」
「だから敬語はやめてって言ってるんですけどねー?」
ちらちらと鳴海を見る美咲。鳴海は少しむっとして、わずかに見下ろすように美咲を見る。
「……悪かったですね。敬語やめなくて」
「悪いと思うならやめてよ」
「お断りします」
くすくすと笑いながら二人の会話を聞いていた陽方だが、ふと考え込むと遠慮がちに声をかけた。
「あの、鳴海さん」
「はい?」
「さっき、美咲さんとは
同い年だって言いましたよね?同い年じゃない従兄弟の方もいらっしゃるんですか?」
「えー、あー…………はい。一応」
「ずっと同い年だと思ってたらしいんですけどね。さっき違うって教えたばかりなんですよ」
美咲からかうように言った。だが本当のことなので言い返せず、鳴海は憮然とした顔でそっぽを向いた。
「……そうですか。きっとお二人と同じで素晴らしい方なのでしょうね」
「あはは……。私達を含めて素晴らしいかはわかりませんけど、陽方さんももう会ってますよ」
「?それはどういう――」
「兄さん!!」
唐突な呼びかけに三人が驚いて振り向くと、道のむこうから少年が走って来るのが見えた。
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