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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
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3ー13 真実

『美咲、行かないの?』

 急に立ち止まった美咲に絢文が問いかけた。

『え、あ、…………ごめん、ちょっと落とし物したみたいだから先行ってて』

『一緒に探そうか?』

『大丈夫、だいたいわかるから。絢、ちゃんと手当てしてもらいなよ』

『はいはい』

 絢文はそう言うと美咲に背を向け、廊下の角を曲がって行った。

『……………』

 黙って客間の戸を見つめる美咲。落とし物と言うのは嘘で、ただやけに気になったのだ。

 それに、絢文の様子がやはりおかしい。いつもならあれくらいの嘘はすぐにばれてしまうのに、気づいたようには見えなかった。そしてその理由はこの客間から漏れる会話にあるように思えた。

 ーー時に、呪術師は鋭い勘を発揮することがある。遠い昔、陰陽師が星を読み未来を見ると詠われたなごりなのか、得てしてその血を引く呪術師たちの直感は確実と言っていいほど、真実を見抜くことに長けていた。そしてそれは、美咲も例外ではない。

 ただ、真実を知ることが良いものであるとは限らないというだけで…………

 美咲はできるかぎり気配を殺して客間の戸に近付き、耳をすませた。

『……しかし、あれが煉賀を継ぐことができるのでしょうか』

『継ぐ?そんなことがあってたまるものか!あやつは当主の奥方の命を奪って生まれた鬼子ではないか!』

『それでも、煉賀の直系であることに変わりはない。当主に必要なのは統率力だ』

『……私には、統率力があるとは思えませぬがね』

『力なきものは、いつの時代も認められない。……あなたがたも見たのでしょう。庭で子供たちは何をしていましたか?』

『……………』

『やはり鬼子は鬼子だ。役にもたたない者を、何故御当主はいまだに煉賀に置いておかれるのか……』

『その理由は明白でしょう。あれが芙美さまとの間に生まれた子供だからですよ』

『愛した者との子は、可愛いものか。それが奥方がお亡くなりになる原因となったとしても……』

『いや、それだけが理由ではないでしょう』

『というと?』

『美咲さまですよ』

 突然出てきた自分の名前に、美咲は思わず声をだしそうになったが慌てて両手で口をふさいだ。

 その間にも、声たちの会話は進んでいく。

『絢文さまが次期当主候補から外れるとしたら、直系は美咲さまと鳴海さまだけになります。ですが鳴海さまは剣士としての素質が強かったため現在も羽斑に預けられています。つまり、呪術師として最も才能があるのは美咲さまです。その美咲さまが懐いてらっしゃるのはーー』

『……あやつ、ということか』

『はい。……幼い頃から従兄である彼を兄と慕い、それは御当主に引き取られてからも変わらず今に至ります。美咲さまから絶対的な信頼を得ているのは絢文さまお一人のみーー』



『ーー美咲』



 びくりと体がこわばり、意識が廊下側に引き戻される。おそるおそる振り返ったその先には、



『何、してるの?』



いつもと何一つ変わらない、笑みを浮かべた絢文が立っていた。





過去の話はこれで終わりです。


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