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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
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3ー12 追憶

過去の話。

絢=絢文=綾のことです。





『絢ー。あーやー!どこにいるのー!』

 ある日の夕方、美咲は絢文を探して家の中を歩き回っていた。ついさっき、夕食を運ぶ手伝いを二人にしてほしいと揚羽に頼まれたからである。

 今日は月に一度、煉賀家で会合が行われる日で煉賀に属する呪術師が数多く集まっている。そのため普段の人数ではまかない切れず、美咲たちも時折手伝っているのだ。

『もー、どこにいったのよー』

 いつもなら小学校に行くとき以外は引きずりでもしない限りめったに部屋から出ないのに、この時に限って絢文の姿は見当たらなかった。早く行かないと、ただでさえ忙しい揚羽に心配をかけてしまうだろう。

『むー、絢ー…………あれ?』

 様々な部屋を覗きこみながら廊下を歩いていると、どたん、ばたん、と物音が聞こえてきた。耳を傾けると、どうやら中庭のほうから音がしているらしい。

『もしかして、絢?』

 中庭には絢文が世話をしている花壇があって、たまに一人でばたばたと土や肥料を運んでいる。部屋にいないのはその時が多いため、今日もそうなのかと思い美咲は絢文を呼びながら庭へと歩いていった。

『あーやー!揚羽さんが呼んでるよー!』

 その直後、庭から小さな声が聞こえた。

 やべ……誰か来……

 …くぞ……けばいい……

 …い!はやく……

 ……………だよ………

 そしてたくさんの足音らしいものが聞こえなくなってすぐ、美咲は中庭に到着した。

『あ、あやっ!?どうしたのそれ!?』

『え、ああ……美咲』

 どこかぼんやりとした絢文は少し困ったような笑みを浮かべ、美咲の名前を呼んだ。庭の桜にもたれかかっているその体は泥と土だらけで、肌にはところどころ血がにじんでいた。半袖半ズボンからのびた手足には何ヶ所か痣らしいものも覗いている。

『いや……、ちょっと猫を助けようとしたら木から落ちちゃてね。助けた猫には逃げられるし、散々だよ』

 そう言って苦笑する絢文に、美咲はどことなく違和感を覚えた。辺りを見回してみると、絢文一人分とは思えない数の足跡が地面に残っている。

『ねぇ、絢。これーー』

『そこ、さっきまで他の術師の子供たちが遊んでたんだよ。僕の手伝いをしようとしてくれた子もいたんだけど、美咲の声に驚いて逃げちゃった』

『へぇ、そうなんだ……。そうだ!絢、ケガっーー』

『大丈夫、大したことないから』

 美咲に何か言う暇を与えず、先回りして答える絢文。ますます怪しかったがそれよりも……

『っ、ちょっ、ちょっと美咲!?引っ張らないで、いたっ!』

『それのどこが大丈夫なのよ!揚羽さんに手当てしてもらうんだからさっさと来る!』

『でも、揚羽さん今忙しいんじゃ……』

『そんなことどうでもいいの!絢の手当てが優先!!』

 自分の本来の目的を忘れ、絢文の腕を引っ張りながら屋敷へとずんずん進んでいく美咲。絢文は最初こそ抵抗したものの、土を払いながら大人しくついていった。

 屋敷に戻り、入り組んだ廊下を揚羽がいる台所目指して二人は黙々と進んでいった。美咲が先に歩いて絢文がついていく。いつもと同じ構図なのになぜか今は息苦しくて、美咲は足早に台所へ歩いていった。

 その途中、ある部屋の前を通りがかったとき、ふと立ち止まってしまった。その部屋ーー客間から、絢文の名前が聞こえた気がしたのだ。


久々の更新です。まだテスト残ってます。何してるんだ私……


過去のお話はもう少し続きます。


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