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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
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3―10 後日

 



「ここ、よね?」

「……地図によるなら、ですけど」

 異形との戦闘の翌日、美咲と鳴海は隣の市にやって来ていた。

 二人が立っているのは広大な敷地を持つ日本家屋の門前。正面に見える門の横には『空嶺』という表札がかかっており、確かにここが二人の目的地であることを示している。だが……

「で………家はどこ」

「……見事に、森しか見えませんよね…」

 開け放たれた木製の門。その向こう側に広がっていたのは、視界を覆い尽くす緑の木々だった。山奥でもこうはならないだろう程の、獣道さえ存在しないように密集した様々な植物たちが顔を覗かせている。

 そもそも何故美咲たちがこんなところに居るのかというと、その理由は昨夜にあった。



「……守護十二家の空嶺!?」

 鳴海が驚きの声を上げる。出かける前に聞いたばかりの家の人物に会うことになろうとは、まったく予想していなかった。予想できるはずもないのだが。

「ええ。と言ってもまだ端くれですよ。あなた方は?」

 どことなく優雅な陽方の動きに思わず見とれてしまっていた美咲が慌てて一礼して言う。

「わ、私は煉賀の当主の娘で煉賀美咲です。それと、隣にいるのは…」

「煉賀家当主の甥で、鳴海と言います。美咲さんの護衛です」

 美咲の言葉を引き継いで鳴海が名乗る。すると、二人の紹介に陽方の表情が驚きに染まった。

「煉賀のご令嬢と直系の護衛ですか。まさかこんなところでお会いできるとは……」

「い、いえそんな!ご令嬢とかいう大した者じゃないですよ!それに、貴方も…」

「貴方じゃありません」

「え?」

 いきなり遮ってきた陽方に、美咲がきょとんとした顔を向ける。それに微笑み返すと陽方は優しく言った。

「貴方、ではなく陽方とお呼びください。私も、名前で呼びますから。美咲さん?」

「は、はい。わかりました。えっと…陽方、さん。陽方さんも空嶺の……ご子息じゃないですか。そんな、改まったのはちょっと……」

「ああ、失礼しました。どうも癖になっているようでして………。あの、もう一人の方は?」

 陽方が目を向けた先に美咲と鳴海も視線を移すと、少し離れた所で綾が黙ってこちらを見ていた。その表情はいつの間にか微笑に変わっている。

「あ、えっとその、綾は……」

「初めまして、空嶺陽方さん。僕は睦月綾、‘協会’の精霊術師です」

「‘協会’!?」

 陽方の顔に驚愕と嫌悪の色が一瞬だけ浮かぶ。だがすぐさま何事もなかったように美咲たちの方に振り向き、口を開いた。

「‘協会’……ということは、煉賀の依頼でですか?」

「………はい。探知術を行える人がいないので、代理を頼んだんです」

「そうですか……」

 直接本人に聞けば良いのに。そう思いながらふと美咲が鳴海を見ると、少し複雑そうな顔をしているのが見て取れた。

「美咲さん」

「え、なに?」

 急に声をかけたのは綾だった。微笑みを浮かべたままゆっくりと美咲に近づき、すれ違いざまに素早く美咲の耳に口を寄せる。美貌と言える整った顔が間近に迫り、美咲の顔が赤くなった。そして彼は―――

「後のことは任せた。僕は帰るぞ」

 そう囁いて、未だに凄惨な光景の残る工事現場からあっという間に姿を消した。

「はあ!?」

 美咲が我に返ったのは、綾の姿が見えなくなってからさらに数分後のことだった。


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