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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
38/90

3―4 黒酸

 

「くそっ、洒落にならないぞこれっ!」

 再び襲いかかってきた異形を跳び避け、続いて振るわれた爪を《椿》で受け止める。ズァリッ、と嫌な音が響き、鳴海は一旦綾達がいる所まで退いた。刃が駄目になったかと思ったが、削れていたのは《椿》ではなく黒龍の爪のほうだったようだ。大太刀には傷一つついていない。

 欠けた爪は先程と同じように地面を溶かし、しばらくすると異形の龍に取り込まれ爪が再生する。どうやら強力な酸のようなものらしいが………。

「あの酸みたいなのよりも再生するのが厄介ね……」

「そう、ですね」

 眉を寄せてつぶやく美咲に鳴海が同意する。それをどうにかしないとこの異形は倒せそうになかった。それに―――

「倒すとしても、“歪み”を先に封じないと意味がないな」

「…わかってるわよそれくらい」

 綾の言葉に若干むっとする美咲。再会してからこの方子供扱いされてばかりだ。確かにこちらのほうが年下なのに間違いはないのだが、小さい頃と同じ扱いをされるのは嫌だった。

「……その方法が思いついたら苦労はしないよ」

「それにこの異形、“歪み”を護ってるみたいだ……」

 鳴海の言う通り、漆黒の龍は全身を現したあと“歪み”を隠すように動いていた。攻撃をする時も最低限の距離を動き、片時も“歪み”から離れようとしない。

「方法がないって訳じゃないけど」

 ぼそりと呟かれた綾の言葉を、美咲は聞き逃さなかった。

「え、あるの!?」

「そりゃあるよ。あれを“歪み”から引き離して“歪み”を封じたあと再生できないくらいに粉微塵にすればいいんだろう?」

「…だからそんなことできたら苦労はしないって」

『粉微塵にならできるけど』

「え?」

 声のした方向を見ると、いつの間にかルキアが綾の肩に座っていた。風妖精はさも当然そうに言う。

『マスターが私の力を使えばあんな異形一瞬で砂にできる。それにマスターには水の精、もがっ!』

「余計なことは言うなルキア」

『むぐ〜、むむむぐむむむむっ!』

「別に今言うことでもないだろう?」

『むむむ……』

「なあ?」

『……………』

「よろしい」

 ルキアの口を塞いでいた手を外すと、綾は優しく彼女の頭を撫でた。ルキアは膨れっ面をしていたが、少し恥ずかしそうだ。……美咲たちには綾たちの会話の意味がまったくわからなかったが。

 そんな彼らに月の光を遮って影が落とされた。

「へ?」

「あ!」

『うわぁ!』

「……ああ、忘れてた」

 そう綾にはっきりと言われた異形の龍は、四人(?)を噛み砕かんとばかりに大きく顎を開き―――

「……いけ」

 風の刃に首を切断された。

『「「た、助かった」」』

 息をついた美咲たちに向かって綾は、

「胴体から離れたから溶けるぞ」

 と言って無情にもさっさとその場を離れた。

 足元には異形の首が転がり、溶け始めていた。美咲と鳴海の必死な悲鳴が、結界にひびいたのはその直後だった……。

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