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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
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3―3 異龍

 異形の龍は“歪み”から巨大な半身を突き出し、首を大きくもたげた。ところどころ濃さに違いはあるものの、全て黒一色で作られた身体は見上げるほどだ。

―――グウゥォォォオォォォオオオオオオオオオオ――――――――――!!!

 天を引き裂くかのように、異形が吼えた。強大な音の波動に周りの音が消え去り、ビリビリと空気や地面が震える。隔離の結界が貼られていなければ、小規模ながら地震とされていたかもしれない。

 一瞬飛ばされそうになった美咲を鳴海が支え、二人はなんとか耐え切る。たが美咲たちよりも龍に近いはずの綾は、顔色ひとつ変えずに刀を鞘ごと地面に突き立てバランスを保っていた。

 余韻が残る中、音が戻った結界の内側には悲惨な光景が広がっていた。

 吹き飛び、地面に当たった衝撃で折れ曲がった鉄骨。土砂にまみれて転がる木材の数々。瓦礫の山と化した建設途中のマンション。そして屍体の部品は血の線を描きながら転がり、フェンスにぶつかって嫌な色を広げていた。

 唖然とする二人を他所に、異形は最も近くにいた綾を喰らいにかかる。綾は強く地面を蹴り、異形を避けると同時に大きく横へ跳ぶ―――美咲と鳴海の襟元を掴みながら。

「きゃ――!」

「うおっ―――」

 その直後、巨大な胴体が一瞬前まで美咲たちがいた場所を凪ぎ払っていった。

「まったく、こんな状況でぼんやりするなんて死にたいのか」

 何度か跳躍し、黒い龍から距離をとったところで美咲と鳴海は地面に放り投げられた。呆れた、と態度で物語る綾を睨みつけながら二人は立ち上がる。

「……それにしても、投げることはないんじゃないの」

「なら、お姫様みたいにすればいいのか?守られるしか能がない役立たずとして扱ってほしいと?」

「誰もそんなこと…!」

「お前が言ってるのはそういうことだ」

「なっ………」

「美咲さん!言い合いしてる場合じゃないです、よっ!」

 異形の突撃ですれ違いざまに迫る爪をよけながら鳴海が叫ぶ。巨体の割にかなり素早く、軽々と避けていた綾が信じられないくらいだ。

「食らえっ!」

 “歪み”に戻るために龍が身を引いた瞬間、反射的に鳴海は抜き身の《椿》で切りつける。

 切り飛ばされた異形の腕の一部が落下し鈍い音を立て、そのままわずかに痙攣したあと動かなくなった。

「鳴海さすが!」

「危ない下がれ!」

 二人分の声が重なって響く。直後黒い腕の欠片が大きく震え、溶けて闇のように暗い液体となって地面に広がった。そして次の瞬間にはシャボン玉のような塊となり、吸い込まれるように異形へ混ざっていく。

 だが、咄嗟に跳んで後ろに下がっていた鳴海は液体が触れた場所を見て絶句した。彼の視線の先、そこは腐蝕し溶け崩れていた。


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