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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
二、兆しは夕闇に
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2―17 揚羽

「あ、揚羽さん!?いつの間に…」

「少し前に綾くんの契約精霊さんが飛んで行ったくらいかしらねぇ。私が来た途端に話を終わらせるなんて、綾くんの恥ずかしがり屋は治ってないのねー」

 そう言って笑う揚羽だが、目の前にいるにもかかわらず何故か彼女を見失いそうになる錯覚に襲われる。おそらくそれは、姿を現した後もずっと消えたままの気配のせいなのだろう。

 普段は気さくなお姉さんだが、さすが当主・絢斗と情報部の長・旭に次ぐ実力者といったところか。今の美咲と鳴海では、姿を隠した瞬間に彼女を見つけることはできなくなるに違いない。

 そんな影の実力者は、ひとしきり笑ったあと小さくため息をついた。

「それにしても、綾くんはすごくなったわ。隠れてたのを気付かれるなんて私もまだまだ修業不足ね」

「え!あいつ揚羽さんに気づいてたんですか!?」

「そうよ。じゃないと私に声をかけれるはずないもの。それに、まだ‘協会’のことについて少ししか説明してないのに話すのをやめたのも、私がいたからなんでしょうねぇ」

「なんでそんな、隠すようなことでもないのに……」

「あの子にしてみれば、気配を隠して近づいてくるような人は信用できないんでしょう。ちょっとした遊び心のつもりだったのに、綾くんに嫌われちゃったわ」

 遊びで気配消してやって来ないで欲しい、まずそれは自業自得だろう、と二人は思ったが口にはしなかった。誰でも命は惜しいからだ。

「それに賢者の石だなんて、どこで見つけたのかしら。危ないことしてないといいんだけど」

「ちょ、ちょっと待ってください。賢者の石なんて存在するんですか!?」

 賢者の石―――それは鉛をも金に変えると言われる道具。中世の時代、錬金術師たちがこぞって造り出そうとしたが、誰一人として成功することはなかったはずの、至高の貴石。石と呼ばれながらもその形状は一定ではなく、製造方法さえも不明。

 故にそれは存在しないはずなのだが………

「存在しないとは言い切れないわ。未だかつて誰も造れていないとはいえ、今、そしてこれから造られないとは限らないもの。だから、綾くんがそれを持っている可能性はゼロじゃない。ゼロじゃないなら………持っていてもおかしくないわよね」

「……やけにあっさりと信じるんですね、揚羽さん」

「だって、そう思わせるくらい今の綾くんは変わったから」

 とても嬉しそうに揚羽は言った。

 昔から彼女にとって美咲たち三人は妹や弟のようなものだった。もちろん三人にとっても揚羽は姉みたいな存在だった。だからこそ、綾が強くなって帰ってきたことが人一倍嬉しいのだろう。

 だが揚羽は不意に真剣な表情になると、つぶやくように言った。

「………ただ、変わることが良いことだとは限らないんだけど」

 その時の彼女の目は、少しだけ哀しそうに見えた気がした。


冬休みがもうすぐ終わるので、また更新が遅くなると思います。



2章はあと数話で終わる予定です。まだまだ長いですが、どうか最後までお付き合いください。


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