2―14 信頼
『マスター、そんなことに術使うのやめましょうよ』
「いいじゃないか。どうせ疲れるのは僕なんだ。ルキアは心配性すぎなんだよ」
『それは、そうですけど。……誰が心配かけてるんですかねぇ?』
「僕だな」
『わかってるならもっと自重して…!』
「ちょっとまったーっ!!」
延々と続きそうな綾とルキアの会話に、美咲は強制的に割り込んだ。そんな彼女に、綾がうろんげな目を向けてくる。
「突然叫んだり殴り始めたり、おまけに人の会話の邪魔をしたり。一体何がしたいんだ」
「そんなことさせてるのはあんたでしょ!?黙って人の話を聞け!あと質問に答えなさい!」
「黙っていればいいのか答えればいいのかはっきりしてほしいんだけど」
「ああもーっ!!」
「み、美咲さん落ち着いて」
『口でマスターに勝てるわけないだろ。人の揚げ足取らせたら日本一、いや世界い…』
「……ルキア、色々覚悟できてるんだよな?」
綾が混ぜかえして美咲が怒り、鳴海がなだめてルキアがちゃちゃを入れ、綾に怒られる。そんな会話が数回繰り返され―――
「……で、さっきの氷は……お前が出したのか?」
ようやく本題に戻り、鳴海が綾に尋ねた。美咲はまだ怒っているのか睨むように彼を見ていたが、一応大人しく鳴海の横に座っている。
「そうだ」
「……やけに簡単に認めるんだな」
「別に。お前らに隠していても仕方ないんでな」
「へぇ、私らには隠す必要もないってわけ?」
綾の言葉に反応した美咲が挑戦的な言葉を放ったが、本人は軽く頭を横に振った。
「そういう意味で言ったんじゃない。これから先行動を共にする奴らに嘘を吐いたら、もしもの時自分の損になる可能性が高いし、それに―――分家の奴と違って、お前らの方が信頼できる」
すると、美咲の顔が一瞬にして赤くなる。よくもまあそんな恥ずかしい台詞が堂々と言えるものだと鳴海が別方向で関心していると、ふと疑問が頭に浮かんだ。
「……なあ、……綾」
「何?」
「お前、なんで俺をそこまで信用できるんだ?」
「ちょ、ちょっと鳴海?」
信頼できると言ってくれたばかりなのに、どうしてそんな不審さを煽るようなことを言うのかと声を荒げる美咲。だが綾は別段気にした様子もなく淡々と言葉を促した。
「…つまり?」
「つまり………、美咲さんとは長い間一緒にいたんだから信頼するのはわかる。けど、なんで今日、いや昨日会ったばっかりの俺まで信頼できるんだ?」
「………………」
無言で二人を見つめる視線が、一瞬にして呆れたものに変わったのを感じ鳴海はわずかにうろたえる。
「な、なんだよ」
「いや………。つくづくお前らの記憶力は残念なことになってるんだなぁと」
「なにそれ。喧嘩売ってんの」
その言葉に一転して怒気を放つ美咲を手で制し、鳴海に向き直った綾はわざとらしくゆっくり言った。
「お前は知って、いや覚えてないんだろうが、僕は昨日よりずっっと前からお前のことを知っているし、覚えてもいるんだよ。……揃いも揃って僕のことを忘れてるなんて、ほんと薄情な従兄弟たちなことで」
そう言い終わったあと、彼は皮肉っぽく口元を歪めた。