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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
二、兆しは夕闇に
25/90

2―9 登場

「……さっきから何度言ってるんだか」

「同感です」

 小さく呟かれた美咲の言葉に鳴海も同意した。実際、篝と壬杉は先程から同じことばかり大声で怒鳴り散らしているのだ。

 篝の息子である緋荻(ひおぎ)は無表情に座っており、壬杉の妹の小春(こはる)は困ったような表情を浮かべてはいるが、どちらも何も言おうとはしない。当主の二人ほどではないが、疑問があるのは確かなのだろう。

 苛立ったように篝が声を上げた。

「やはり‘協会’のような無法者の集まりにこのような重要な仕事を任せるのは……!」

「………篝殿」

 それを遮り、口をはさんだのは絢斗だった。

「口を謹んでいただきたい。‘協会’は私たちの要望通り、現在手が空いていて探知を行うことができる術師を派遣してきた。それに年齢が関係あると?仕方ないから、と貴殿たちは依頼するのを認めたのではなかったか?」

「いや、それは……」

「文句を言うのは、探知術を使えるようになってからにするべきだろう。…………私を含めてな」

 煉賀当主の言葉に二の句をつぐ者、いや、つげる者はいなかった。彼が言った通りなのだから当然である。

 込められた迫力はさすが綾の父親と言うべきか、彼と同じように反論する気力を失せさせる力があった。美咲は改めて綾が絢斗の息子なんだなぁ、と実感する。

「失礼いたします」

 シン、と不気味に静まり返った部屋に、使用人として働く術師の声が響いた。

「‘協会’の方をご案内しました」

「入りなさい」

 絢斗が許可を出し、下手の襖がが開かれる。


「失礼します」


 開いた瞬間、清廉で静謐(せいひつ)な空気が部屋中に広がった。

 姿を見せたのは、綾。だがその気配は昼前に会った時とは違い、風のない水面のようになめらかで固く、深海のように重く暗い。

 強いて言うなら、人と一線を画した何かであるような―――

「‘協会’から参りました。精霊術師、睦月綾と申します」

 再び綾が声を発し、ようやく美咲は我に返る。……完全に、彼の気配に呑まれていた。

 改めて彼の姿を見るが、服装や髪型は昼前となんら変わらない。表情も絢斗と会っていた時と同じ柔らかな微笑み(おそらくこれが彼の表向きの表情なのだろう)を浮かべている。が、やはりどこかが違う。

「…ぉ、おお、君が件の精霊術師か。優秀な術師と聞いているし、よろしく頼むぞ」

「ええ、もちろんです」

 美咲、鳴海、絢斗、揚羽の四人を除く人々の中で最初に我に返った壬杉が先程と正反対の言葉を言い、綾がゆるりと頷き返す。わずかに壬杉が落ち着かない様子なのは、綾の気配に圧されたか、それとも―――その美貌に圧倒されたのか。


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