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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
二、兆しは夕闇に
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2―6 中身

「どうして……」

 美咲のつぶやきに答えられる者はいなかった。そして、もし答えれるとしたら、あの人物しかいない。

「あいつなら、綾なら知っているんでしょうか……」

 複雑そうな顔で鳴海が言った。

 それを聞いて美咲がはっとした表情になる。

「そうだ。鳴海、これ!」

「なんですか。……手紙?」

「そう、手紙!綾からあなたへって!!」

「!!」

 思いもかけなかった出来事に、驚愕のあまり鳴海は声を失った。

 そんな彼を急かすように美咲は言葉を続ける。

「もしかしたら何か分かるかもしれないよ。ね、早く開けてみて」

「は、はい……」

 その勢いにおされたのか、快く思っていない相手からの手紙にもかかわらず素直に封を切った。

 すると中から何かが転がり出た。

「うわっ、と」

 床に落ちる寸前に鳴海がそれをすくい上げる。その拍子にそれは彼の手の中でカチリという音をたてた。

「………?、石?」

 鳴海が呟く。確かにそれは石のようだった。ルビーより深い赤色の板状の小石が二つ、手のひらに乗っていた。

「鳴海!それよりも手紙!」

「あ、そうですね」

 とりあえず石を封筒に戻し、代わりに便箋を取り出す。便箋、というより単なる白い紙は丁寧に折り畳まれていた。

 ゆっくり開き、読む。

「『刀を折ってしまってすまなかった。代わり、というわけではないが、同封している石の一つを折れた部分に当てて呪力を流してみると良い』………なにこれ」

「かなり一方的な文章ですね……。しかも後半は説明不足すぎます」

 二人は顔を見合わせるが、まったく書き手の意図が掴めない。

「悩んでても仕方ないし、試すだけ試してみたら?」

「……そうですね」

 鳴海はため息をつくと、封筒から石を一つ取り出し、手にとって眺めた。

紅玉(ルビー)よりも柘榴石(ガーネット)に近そうですね。色がすごく深い」

「そう?言われて見ればそうかもだけど、よく分からないよ」

 じっくり見た後、静かにそれを摘まむと《椿》の折れた刃と刃の合わせた部分に当てた。

「じゃ、いきます」

「うん」

 すぅ、と深呼吸をして石を持った指先に呪力を集め、徐々に流しこんでいく。

 最初は弱く。だんだん強く。

 しかし、五分あまりたっても変化は現れなかった。

「なんにも起こんないねー」

 ぽつりと美咲が言い、鳴海自身も諦めて手を離そうとした瞬間、紅い閃光が爆発した。

「きゃあっ!」

「うわっ!」

 しかしそれも一瞬のことで、思わず閉じていた目を開いた時には変わりない部屋の光景が広がっていた。

 だが、鳴海の手からはあの石の感触が消えており、ふと手元に視線をやったところ――

「「なっ!?」」

 二人は絶句した。

 彼の手元、そこには傷一つない、光を反射する美しい刀身を持った大太刀《椿》の姿があった。


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