2―5 太刀
数分後、悩んだ末に美咲は一旦外へ出て離れの前に立っていた。
先程と変わらず中は灯り一つなく、ガラス越しに見えたのは薄暗い闇だけだった。
何なのかは分からないが重みのある手紙を右手に持ち、ためらいがちに左手で入口の戸を叩く。
「あの、鳴海?ちょっといい?」
―――――――。
返事はない。ただ、耳鳴りがしそうなほどの静寂が辺りを覆っていた。
美咲は意を決し、戸に手をかける。
「……鳴海?……入るよ?」
カラカラカラ
引き戸特有の音を響かせ、ゆっくりと足を踏み入れる。
離れと言っても大した広さはないので、靴を脱いで短い廊下を歩くと、すぐに一つきりしかない部屋の前に着いた。
「鳴海、いるの?」
扉を開けた先は案の定真っ暗だった。だが確かに人の気配がするから居るのは間違いないだろう。
「もう!鳴海、居るんなら返事くらいしなよ」
そう言いながら美咲は何も見えない部屋の壁を手で探り、スイッチを押した。
とたんに白い蛍光灯がつき、一瞬目が眩む。 その後光に慣れた目に映ったのは、こちらに背を向けて床に座った鳴海の姿だった。
背後からなのでよく分からないが、寝ているというわけではないらしい。
「どしたの?なる…」
「おかしいんですよ」
「へ?」
唐突に言われたため、間抜けな声を出してしまった。わずかに視線が宙をさ迷ったが気を取り直して美咲は尋ねる。
「おかしいって、何が?」
「……ちょっとこっちに来てもらえますか」
「あ、うん」
不思議に思いながらも鳴海の正面に回りこみ、彼と同じように床へ目を向けてみる。
「…………なに、これ」
わずかに間が空いたあと、少女の口から呆然とした声が漏れた。
そこにあったのは先程も鳴海が試合に使っていた大太刀|《椿》。三年前、彼が煉賀に戻った時に当主から与えられた刀で大きい割に軽く、切れ味も良いためスピード重視の鳴海にはぴったりだった。それが……
「うそ、だって鞘にしまった時はこんなことになってなかったのに……」
「俺も帰ってから気付いたんです。弾かれたし地面に落ちたから、刃が欠けてないかと思って。………まさか、折れてたなんて」
そう、《椿》の刀身は半ばで真っ二つに別れており、細かな欠片と共に白布の上に広げられていたのだ。驚かないはずがない。さっき美咲が言った通り、綾との試合のあと太刀を鞘に入れた時は折れてなどいなかった。だいいち、折れていたら鞘に入るはずがない。