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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
二、兆しは夕闇に
20/90

2―4 手紙

「どこにいたの?」

『何処って、ここ』

 目を丸くして尋ねる美咲に、ルキウスはさも当然であるかのように答えた。むしろ何故そんなことを聞くのかとでも言いたげだ。

「でも、さっきいなかったわよね?」

『いや居たぞ。姿は消していたが』

「へぇ姿を消して……って姿消せるの!?」

『当たり前だろう。姿見せたまま街中飛んでどうする』

 まあ確かにそうだ。妖精が堂々と天下の往来を闊歩していたらどうなることか。パニックじゃ済まされないだろう。

『そんなことより、ほら』

 ルキウスが差し出してきたのは一枚の封筒。文字も絵柄もない真っ白でシンプルなものだ。

「なにこれ?」

『見ての通り、手紙』

「宛先もないのにわかるかっ」

 手紙だったらしい。

 だがそれ以前に、

「……どこから出したのよそんな大きい物」

 手紙の封筒の大きさ自体は美咲の手のひらほどだが、どう考えてもルキウスの体長の半分を軽くこえた大きさがある。さっきまで身一つだったのにどこから出現したというのか。

『言ったらわかるのか?』

「さあ?」

『じゃあ言うだけ無駄だ』

 そこまであっさり言われると悔しい、が反論できるかと言ったら…………

「それで!その手紙がどうしたの?」

『露骨に話を逸らしたな……。まあいい、これがわたしの用件だ』

「これが?」

 手紙を受け取り部屋の明かりに透かしてみると、もちろん中には便箋が入っていた。それにしては薄っぺらい。

『正確に言うとマスターにその手紙を煉賀鳴海に渡してくれと言われた』

「鳴海に?――綾から?」

 あれから大した時間もたっていないのに、何を考えているのだろう。

 美咲は未だに綾との距離が掴みきれていなかった。‘協会’の術師としての今の彼と、義兄として、幼馴染みとしての幼い頃の彼。その二つの差は、予想以上に大きかった。

 だからこそ余計に、彼女には綾が何故今、鳴海に手紙を渡そうとしているのかがわからない。

『確かにお前に預けたぞ。鳴海とやらに渡しておいてくれ』

「まって!」

 そう言って早々に窓から出て行こうとするルキウスを美咲は慌てて呼び止めた。

「なんで私なの?直接鳴海に渡せばいいじゃない」

 その言葉に風妖精は深いため息をついた。

『普通、自分が完敗した相手の使いの話を素直に聞くと思うのか?』

「あ」

『それにマスターがお前から渡した方がいいって言われたんだ。わたしはそれを実行しただけだ』

 そのままルキウスは出ていった。窓の外をうかがっても、その姿はすでにない。

 美咲の手には、一通の手紙が残された。




 やがて日が沈み、夜闇が近づいて来る。

 異形のものたちが現れる時間が、訪れる。


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