1―1 任務
深夜、町外れの古びた神社に二つの人影があった。
一人は高校生らしき少女。少しくせのある、ひとつに束ねた長く茶色がかった黒髪を風に揺らし、境内から鳥居の辺りをじっと見据えている。
もう一人は少女と同い年くらいの少年。日に焼けた肌、短く刈った髪と見るからにスポーツマンといった風情だ。手に棒状のものを持った彼も少女と同様に鳥居を見て、というより睨んでいた。
二人は何があってもすぐ動けるように各々が立ち回りやすい場所に佇んでいるし、似たような仕事は何度もこなしている。が、それでも軽い緊張は否めないようだった。
そんな二人の周りを夜風が緩やかに踊っていく。
(やっぱり探知系の術が使えないと不便ね……。いつまでここで待たなきゃいけないんだろ)
緩くウェーブを描く髪を掻き揚げながら、煉賀美咲は丹塗りの鳥居を監視していた。今夜の仕事はこれで終わりだが、よりによって現在最も面倒なものが残っていたのだ。
それは“むこう”――俗にあの世や霊界、黄泉などと呼ばれている世界と“こちら”、つまりこの世が繋がる“歪み”を封じる、ということなのだが、厄介なことにこの“歪み”というやつは視認できないと封じられない。
つまり“歪み”が発生するまでその予定地を監視し続けなければならないのだ。
だが普段そんな面倒なことをしていたら手遅れになる場所が出てきてしまう。そうならないために、いつもは事前に探知術で正確な発生時刻を調べてもらっているのだが………
「やっぱり旭さんがいないと大変ですね」
同じことを考えていたらしく、自分より鳥居に近い場所に立つ煉賀鳴海が呟いた。
呪術師の家系にありながら珍しく近接戦闘を得意とする彼は、大太刀をいつでも抜けるように手をかけている。
だが、いつもと違っていつ“歪み”が発生するかわからないからか、額にうっすらと汗がにじんでいた。
旭というのは美咲の叔父で、煉賀の情報面の一切を取り仕切る人物だ。そして“歪み”の探知のほぼ全ても彼が行なっている。
だが彼は先日起こった事件の際に怪我を負い、現在は病院で療養中。そのため今の煉賀には探知術を使える者がほとんどおらず(探知術はかなりの実力がなければ会得できない)、こうして後手に回らざるを得なくなっていた。