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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
二、兆しは夕闇に
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2―1 夕方


「はぁ………」

 日が落ちかけた夕方の6時半。あれからまだ大した時間もたっていないがすでに夜の色に染まり始めた空を美咲は自室の窓から眺めていた。

 あのあと美咲と鳴海は煉賀に帰り、当主から客の出迎えを命じられた。客とはもちろん綾のことで、あと30分もしないうちにやって来ることになっている。

 かつての煉賀絢文としての彼ではなく、‘協会’の術師の睦月綾としてだ。

 そして今日から彼は探知術を使い歪みを探し始める。これから行われるのは煉賀の術師との顔合わせするための会議らしい。

 綾が絢文であることを知っているのは当主と揚羽、そして美咲と鳴海の4人のみ。ちなみに帰ってから直接聞いたのだが、揚羽は綾に会ってすぐに気付いたそうだ。自分の鈍さが嫌になってくる。

 はぁ、とまたため息をついて視線を下げると、視界の右端に明かりの消された部屋が見えた。

 そこは煉賀の敷地内にある離れの一つで、鳴海の部屋だ。薄暗くなってきたにもかかわらずわずかな明かりさえ灯されていない。

 屋敷に帰ってきてすぐ、当主への報告もそこそこに彼は部屋に消えてしまった。だがその無礼とも取れる様子に対して当主は特別なことは何も言わず、ただ報告について

「そうか」と応えただけだった。おそらく、何があったのかだいたいの予想はついているのだろう。それでも綾の出迎えを頼んだのは何かしら理由があるからなのかもしれない。

『ああ〜っ!やっと見つけた〜〜!!』

「へ?ってきゃあっ!」

 突然大声が聞こえたかと思うと、何かがすごいスピードで部屋の中に飛び込んできた。

『ふぎゃ!』

 それはそのまま直線的に進むと、敷きっぱなしにしてある布団に直撃。その後ふらふらと浮き上がった(・・・・・・)

『うー、着地失敗ー』

 それは小さな手で小さな頭をさすりながら呟いていた。……失敗とかそういうレベルの突撃じゃなかったと思うのだが。

「……せ、精霊?」

 美咲が思わず口を開くと、『それ』は小さい身体をぐっと近づけ睨み付けてきた。

『精霊じゃなくて妖精!もしくは上位精霊!ピクシーをバカにするな!』

 大声でまくしたてると肩で息をした。身体が小さいぶん肺活量も少ないらしい。

 身長は二十センチほどで見た目は人とほとんど同じ。ぱっと見て違うのは耳がとがっているのと……半透明の羽が二対生えていること。それ自身が言った通り、風精霊、いや風妖精ピクシーの特徴だった。

 突然のことに唖然としている美咲から視線を外すとピクシーは愚痴るように呟いた。

『これだから人間は嫌なんだ。精霊と妖精の区別さえわかりやしない。主人(マスター)義妹(いもうと)じゃなかったら攻撃してるとこだった』

「マスター?妹?」

 まったく意味が分かっていない美咲に苛立ったのか、ピクシーは宣言するかのように再び大声で叫んだ。

『わたしの名はルキウス。最強の術師にして我がマスター、睦月綾の契約精霊だ!』

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