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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
一、始まりの邂逅
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1―14 決着


 正直なところ、美咲は二人の闘いを目で追うのが精一杯だった。

 もとより鳴海の剣術と体術は煉賀の一族の中でもトップクラスで、その速さは並みではない。体術だけなら当主には適わないにしても次点を押さえているだろう。もちろん隙などほとんどない。あったとしても速過ぎて見えることはない。

 だから――鳴海の身体が飛ばされるのが見えたとき、自分の目を疑った。

 綾の体術がどれほどのものかはわからないが、昨夜の動きと先程の殺気、それを知っていてなお鳴海が攻撃をくらうとは微塵にも思っていなかったのだ。油断していなければだが、体術の苦手な美咲でも昨夜の異形は倒せないことはなかっただろうし、殺気は実力に関係なくとも放つことだけはできる。

 いや、これはただの言い訳でしかない。要するに、自分と鳴海は読み違えていたのだ。彼の……綾の実力を。

 その時、二人の対話が途切れ、声が聞こえた。

「木行壱式、烈華!」

 鳴海の叫んだ言葉。それは呪術の一つである、五行に属する術式。――呪術抵抗のない綾にとって、かすり傷さえ致命傷となりうる攻撃。

 しかも、よりによって木行、それも烈華とは!

 五行が木火土金水の五つの元素から成り立ち、なおかつ様々な物事が当てはめられていることは呪術師なら誰もが知っている。色、方角、数字などもそこには含まれているのだ。

 木行――色は青、方角は東、時期は春。

 火行――色は赤、方角は南、時期は夏。

 土行――色は黄、方角は中央、時期は土用。

 金行――色は白、方角は西、時期は秋。

 水行――色は黒、方角は北、時期は冬。

 そして今の季節は春、鳴海が立っているのは東側。つまり木行の力は格段に強くなる。

 加えて烈華という術は葉や花びらが舞い散り、無数の刃となって相手に襲いかかるもので、桜の木が多く植えられているこの神社ではこれ以上ないほど効果的な術式だ。――だが、綾にとっては最悪の術だろう。

 咄嗟に止めに入るより速く、舞い上がった花びらが綾に届く直前彼が緩やかに動き、刀を……抜いた。


 そこから先の出来事は本当に一瞬だった。

 舞う花びらに紛れて鳴海が太刀を振るう。だが綾がそれより速く刀を振るい花びらを来る端から全て落とす。直後鳴海の斬撃が綾を襲い彼も刃を切り返していく。

 数度刀同士が打ち合う高く鋭い金属音のあと、ひときわ大きい鈍い音が聞こえた。

 ――カラン。

 遠くの石畳に何かが落ちる。打ち合いはすでに終わっていた。

 音のした方に目を向けると、そこにあったのは一振りの大太刀。

 そして視線を戻した先に見えたのは仰向けに倒れた鳴海と、彼の首の真横に刀を突き立てた綾の姿だった。


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