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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
一、始まりの邂逅
14/90

1―13 勝負

 

 二人は10メートル程の間をあけて互いを見合っていた。

 美咲は神社の賽銭箱の前に腰を下ろしその様子を眺めており、その瞳はどうも不安げだ。

 社から見て右手には鳴海。太刀を構え鋭く綾を睨みつけている。

 そして反対側、左手には綾。刀を抜くことなくただ左手に提げ、鳴海を静かに見つめている。

 しばしの静寂。

 ――先に動いたのは鳴海だった。

 脚力を最大限に使用した爆発的な加速によって両者の間は一瞬にして埋まり、美咲が気づいた時には既に攻撃を始めている。

 一撃目は加速の勢いをそのまま利用した強烈な突き。その威力は金属にさえ安々と穴を空けるだろう。

 ――そこで初めて綾が動いた。

 太刀の切っ先が服に触れる寸前、軽くサイドステップ。同時にわずかに身体をひねることによって、刺突を難なくかわす。

 突き出した太刀を大きく凪ぐ。

 綾の腰辺りを断つはずだった刃は、素早く身を折り屈みこんだ彼にかすりさえせずただ空気だけを裂いた。

 咄嗟に反応できずにいる鳴海の懐に潜りこんだ綾は、身を起こす勢いを使い手の平を打ち込む。続いて、鳴海の身体が浮いた隙を見逃さず流れるように上体をひねり、回し蹴りを叩き込んだ。

 吹き飛ばされる鳴海。受け身を取り体勢を立て直すものの、着地の際に片手をついてしまう。

 反撃されない絶好のチャンス。だが綾は追い討ちをかけず、最初と変わらぬ様子で鳴海を見ていた。

 立ち上がり再び構えをとるが、鳴海はかなり苛立っていた。

 互いに二撃。だが己が放った突きと斬撃はかすりさえせず、逆に相手の掌底と回し蹴りは的確に自分をとらえていた。特に表面上は平静に保っているものの掌底は内蔵に強い衝撃を与えており、立っているだけなのに膝が折れそうだ。それに、綾はまだ刀を抜いていない。

 そして何より許せないのは、

「……なんで追撃しなかった」

 追い討ちをかけないというのは、相手が倒すに値しないという意味を示す。つまり、綾にとって自分は敵でさえないということなのだ。

 そう、ただそれだけがひどく彼を憤らせていた。

「勘違いするなよ」

 だが、綾はそれを否定した。

「僕の戦闘スタイルは攻めるのにむいていない。だから追い討ちをかけなかっただけだ。―――それに、今のは全力じゃないだろう」

 体術では先のが自分の最速であり全力だった。あくまでも、体術では。

「まさか……!」

「そう、呪術を使え。あまり得意ではなさそうだが、使えないことはないのだろう?」

 確かに使えなくはない。仮にも煉賀の術師だ、基礎的な術は全て習っている。

 だが綾には呪術抵抗がないのだ。どんな弱い術でも当たればただではすまないだろう。

 わずかなためらいを見てとったのか、綾はこう続けた。

「敵の心配など無意味だ。二度は言わん――全力でこい」

 次の瞬間、鳴海は無意識に叫んでいた。

木行壱式(もくぎょういちしき)烈華(れっか)!!」


 そこでようやく、綾は刀を……抜いた。


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