1―12 理由
美咲、鳴海、そして綾の三人は昨日の神社を訪れていた。
あのあと鳴海は挑戦(と自身は思っている)を受け、広く闘っても被害がでない場所ということで町外れのこの神社が選ばれたのだが……
「ねぇ、……綾」
「何だ」
戸惑った様子で美咲は前を行く青年に声をかけた。
「昨日会ったの、綾よね?」
「そうだ。――すぐ会うと言っただろう?」
一度否定したことをあっさりと肯定する綾。
既に確信していたためさして驚きはしなかったが、そうするとやはり疑問が残る。
「まあ、確かにそうなったけど。……じゃあ、なんでお義父さんに嘘吐いたの?」
そんな大層なことできない―――言葉こそ謙遜したものだが、彼は違うと言った。義父の不自然な態度よりも、そんなことをする必要があったのかが気になっていた。
「あれか。あれはそうした方がお互いに都合がよかったんだよ」
「都合?」
「そうだ……。僕は‘協会’に所属している。今回は〈今日〉からが任務開始だった。つまり〈昨日〉の時点では僕は煉賀と関わりがない。なのに、僕が二人を助けたとしたらどうなると思う?‘協会’の術師が関わりがないはずの煉賀の術師を、だ」
「あ!!」
そこで、彼女は気づいた。術師の一族は基本的に互いに不干渉。つまり、
「‘協会’が煉賀と特別な関係にあるという噂が流れる!」
「そう。この町にだって色々な術師もしくは使い魔がどこかにいるはずだ。当主がそのことを知っていれば、勘づく奴が必ずいる。だからあの場ではそう言ったんだ。当主もそれがわかっていたから、敢えて僕の嘘にのった」
「そっかぁ…」
それなら綾が吐いた嘘も、義父の態度にも説明がつく。
「ただ」
一人納得している美咲に綾は言葉を続けた。
「ただ?」
「一番長い付き合いだったお前が僕のことを忘れて、なおかつ変な人扱い……嘘を吐きたくなっても仕方ないだろう?」
そう言って彼はわずかに笑った。だが目はまったく笑っていない。
「あ、あのさ、綾」
「うん?」
「……怒ってる?」
そう聞くと彼はニコリと笑った。だが目はかけらも笑っていない。
「怒ってるわけないだろう?」
間違いなく怒っている。少女の記憶違いでなければだが、小さい頃、彼が不自然に笑うときは心の中で怒っているのがほとんどだった。はっきり言ってかなり不気味なのである。
「準備できたぞ」
いつも持ち歩いている紺色の竹刀袋から出した大太刀で素振りをしていた鳴海が、綾に声をかけた。心なしか不機嫌そうだ。
「美咲さんに何か言ったのか?」
気まずげに表情を歪めた彼女の姿を見て、さらに綾を睨む。
いつの間にか無表情に戻った綾は、ごく自然に鳴海に視線を向けた。
「別に。なんでもない」
そう言いはしたものの、どう見ても鳴海は納得していない。だが彼は他に何か言うでもなく自らの竹刀袋に手をかけた。
現れた黒鞘の刀を左手で掴み、告げる。
「始めようか」
しばらくして、鋭い金属音が響いた。