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不運の王子と幸運の鍵  作者:
2章
8/33

4 騎士と魔法使い

 そろそろ目覚めるころだろうとアリステアの部屋に赴いたリークの目に映ったのは、寝息を立てる部屋の主と、その枕元でがくがくと派手に船を漕いでいる幼馴染の姿だった。

「……おい、起きろ、エリカ。鍵はどこへ行った」

「んあ? ……あ、おはよーさん、リーク」

 てっきり鍵――シャンテルが居るものと思って心構えをしてきたというのに、居たのがこれでは肩の力も抜ける。

「うあー、なんか首いたい」

「……鍵はどこだ」

「えー? 植木鉢の下かなんかじゃないの?」

「シャンテル・アルフォードはどこへ行った!」

 すっとぼけたことを言うエリカに、思わず怒鳴る。

 怒鳴られたエリカは、リークの剣幕など想定内というように、驚くこともせずにのんびりと頷きながら目をこすっている。

「そうそう、人のことはちゃんと名前で呼ばなきゃね。シャンテルはね、なんかアリスが怒らせちゃったらしいよ。でもなんか、アリスでれでれしてたから、それなりに仲良くなったんじゃないの?」

「お前が焚きつけたんだろうが。余計なことばっかしやがって」

 まだ眠そうに目を瞬くエリカに、リークはため息と共に呟いた。表情に乏しいわりに、人懐こくおせっかいな幼馴染の考えることは、未だによくわからない。

「焚きつけるってなに。僕はただ仲良くしたいだけだよ、皆でさ。リークこそ、シャンテルいじめたんじゃないの?」

「なんで俺があんな小娘をいじめなきゃならないんだ。俺は騎士だぞ」

「よわよわのね」

「よわよわって言うな」

「へなちょこのね」

「……もういい、黙れ、へっぽこ魔法使い」

 がっくりと肩を落として低く言うと、エリカはお互い様でしょ、と肩を竦めてみせた。

 エリカの相手はやめて、リークは本来の目的であるアリステアの診察をする。寝息は規則的だし、顔色も朝方よりはかなりいい。軽い風邪だけですんだようだ、とほっとする。

「……アリスの怪我、あんまり治ってないね」

 細かに残る傷を見て、エリカはにわかに真剣味を帯びた口調で言う。

 痛いところをつかれて、リークはああ、と冴えない返事を返した。

「ここのところ、めっきり魔法の効きが悪い。薬草中心に治療しても、新しい怪我に追いつかない」

「ほんとに魔法とか呪いの類じゃないの? アリスのこれ」

 上掛けに隠れたアリステアの腕を引っ張り出すリークに、備え付けの薬箱を差し出しつつ、エリカは首をかすかに傾ける。

「……王宮魔法使い(ロイヤルウィザード)内で調べた限りでは、としか言えない。ただ、アリスはほとんど魔力を持ってない。なのにこうも魔法を打ち消されるとなると、先んじて魔法をかけられた可能性は高い。不自然すぎる。昔はこんなんじゃなかったはずだしな」

 薬箱から取り出した包帯をアリステアの腕に巻きながら、リークは思う。こんなふうではなかったといえば、この腕もそうだろう。館に篭るようになってからというもの、すっかり色が抜けてしまった、白い腕。外で遊んでばかりだった子供の頃は、快活に日に焼けていたというのに。

「打つ手はないの?」

「あればあんな小娘に頼るかよ、バカ」

 今更言われるまでもない。シリエルの一件の後、王宮魔法使い(ロイヤルウィザード)や事情を知る高位の術師は総力を挙げ対策を模索したし、騎士団の一部も家の私兵も使い、怪しい者は徹底的に調査した。だが――わからなかった。魔法の気配、何がしかの残滓は確かにあるのに、それを追えない。魔法だとしたら、相当に高位なものだろう。その使い手も同じくだ。

 リークの心中を知ってか知らずか、エリカはだからー、と間延びした声を出す。

「シャンテル、でしょ。あんまりいびるの止めなよ、リーク。小姑みたいだよ」

「あの小娘、気に入ったのか? お前」

「ちょっと頭は固いけど小さくてかわいいし、しっかりしてそうだし、いいんじゃない? きっとアリスの支えになってくれるよ」

「……どうだかな。ツンツンしてて、可愛げがないように思えるが」

 口ばかり回り、何か言えば食ってかかるシャンテルを思い出せば、自然と眉が寄る。大人しげな外見に似合わない、まっすぐに人を睨む鮮やかな緑の目がいけ好かない。

「リークがそんなだからだよ。人のふり見て我がふり直せ。シャンテルにとやかく言う前に自分の態度思い返してみれば?」

「……ずいぶん肩を持つな」

 一方的に責められ、思わず恨みがましい声が出る。

「僕は女の子全般好きだもん、仕事が恋人なリークと違ってさ。リーク、こないだもお見合いした女の子にふられたでしょ。やーい、ふられ男―」

「…………」

 子供じみたエリカの揶揄に、包帯を巻く手に無意識に力が篭る。

きつく締まった包帯に、うう、と苦しげにアリステアが呻いた。


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