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戦士ラインの剣 1

 実は、メルメルは例の「あの剣」を修理するため、この街に来てから直ぐに、マリンサと二人で鍛冶屋へと向かう事にしたのだ。初めて訪れた街だし、場所も、そもそもこの街に鍛冶屋なるものがあるのかどうかも分からなかったから、たまたま尋ねた飴売りの老婆が、この街では武器屋も兼ねた鍛冶屋がちゃんとある事、更にはそこへの道順までも丁寧に教えてくれたのには、本当に助ってしまった。

 メルメルは、マリンサが買ってくれた飴をペロペロと舐めながら、もう半分くらい修理が出来たような気になってウキウキと通りを歩いた。

 見馴れない景色にわくわくどきどきしながら、そして時には、珍しい店の名前を見つけてふらりと近付きそうになる自分をぐっと抑えながら(だって、「ペットベッド専門店」なんて、メルメル達の町にはなかったんだ)進んで行くと、遂に、老婆が目印にと教えてくれた、鍛冶屋の隣に建っている時計屋の真っ赤な屋根が見えてきた。

「あ! り、リーダー!」

 メルメルは思わず駆け出していた。何故なら、鎚で鉄を打つ、あの独特のカーンカーンという高い音が聞こえてきてすっかり興奮してきてしまったからだ。

 頬を紅潮させながら、メルメルは広く開け放たれた観音開きの扉の向こうに飛び込んだ。


「いらっしゃい!……おや?」

 かけられた声にも気付かない様子で、少女はキラキラと瞳を輝かせて店の中を眺めている。

 声をかけたのはこの店の主人で、彼も長年鍛冶屋なるものを務めてきたが、滅多には来ない種類のお客(そりゃあ、飴をくわえた女の子なんて鍛冶屋に来るわけないんだ)を見て、目を丸くした。

 店の壁には隙間なく様々な種類の武器が飾られている。剣が最も多いが、斧や槍、弓や鞭などもあった。中には不思議な形の――刃先が二つに分かれた剣などがあって、少女はそれらをじっくり見てみたいと思って、顔を近付けた。

「時計屋なら隣だよお嬢ちゃん」

 頭のすぐ上から声が降ってきて、少女ははようやくそちらに目を向けた。

 鍛冶仕事で使う火の熱のせいで、すっかり赤黒く焼けてしまった丸い顔がそこにあった。

「ここにはお嬢ちゃんのお好みの物はないよ。――ほら、店を出て左手が時計屋だ」

 隣の時計屋は普通の時計だけでなく、様々な種類のからくり時計なども扱っていて、昼になるとそれらの仕掛けが一斉に動き出すのだ。結構な値段が付いているのを見て、ハルバルートの都や、東の都とも呼ばれているケイトの金持ち連中ならともかく、この街の誰がこんなくだらない物に金をだすのかと、鍛冶屋の主人はクルクルと動き回る仕掛け人形を見ながら思ったものだ。しかし、日々の生活に追われて毎日鉄を叩いているような無骨な自分はともかく、子供達にはあのからくり時計は大人気で、毎日昼が近くなると隣の店は一体何屋なのかと首を傾げたくなるほど子供でごった返す。鍛冶屋の主人はチラリと壁にかけられた時計に目をやった。――やっぱり。程なく十ニ時だ。

「お嬢ちゃん、早くしないと動き出しちまうぞ」

 丸くて赤黒い顔が思いの外優しげに、まるで蛭子様のように微笑んでいるのを見上げて、少女は首を傾げた。

「動き出すって、何が?」

「何がって――」

 その時、店に新たな客が入って来て、主人の関心は少女から一瞬でその女戦士に移ってしまった。「いらっしゃい!」大きな声で言って、満面の笑みで歩み寄る。――本命だ。思わず心の中でガッツポーズをする。店には既に三人のお客がいたが、そのどれもが明らかに冷やかしの類いで、全く武器など必要なさそうな連中だった。ところが、今店に入って来た女戦士は違う。

 日に焼けた肌、鍛え上げられたガッチリとした体、いくつもの修羅場をくぐり抜けたと想像させる鋭い目付き。腰にくくりつけてある鞭に目をやり、主人は赤黒い蛭子顔をにこにこさせながら、一方の壁を指差した。

「あの辺りに鞭はまとめて置いてあります。数は少ないが、良い物が揃ってますよ」

 女は、主人の指差した方には目を向けず、何やら大した興味もなさそうな顔で店の中を見回している。――何だ、この女も冷やかしか。と、主人はわずかに蛭子顔を雲らせた。

「……ふむ。まぁ、確かに品揃えは悪くない」

 女がポツリと呟いた一言に、すぐに主人はにこにこの蛭子顔に戻った。

「そうでしょう? ……あ! もしかしたら鞭以外の物をお探しですか? 因みに、こちらの斧はガーナ女王時代に活躍した、ロロ族の英雄ザームスが好んで使った――」

 主人は、棚に並べられた品を眺めながらゆっくりと歩き出した女の横に付いて回り、相手が聞きもしない品物についてのあれやこれやを説明し始めた。その後ろを、先ほどからすっかり存在を忘れ去られてしまった少女が、「へ〜」とか、「ほ〜」とか、相づちをしながら付いて歩いている。

「この槍はルルー女王時代に、かの赤軍で副隊長を務めていたネムロンが使用していた槍と全く同じ物なんです」

 熱心に商品の売り込みを続ける主人に、女が興味を引かれた様子は全くない。その代わりに、

「え、赤軍の副隊長が? そうなんだ〜。すご〜い!」

 少女の方は興味津々といった顔で、何か説明する度に主人が客に求めているような小気味良い合いの手を入れてくれている。しかし、どう見ても武器など必要なさそうな子供に関心を示されても全然意味がなく、興味を持って貰いたい相手は素知らぬ顔で、「うん」でもなければ、「すん」でもない。

 これは期待はずれだと主人が諦め始めた時、店の入り口に新たな客が現れた。三十代半ばくらいの貧弱な優男で、いかにもお飾りという感じで腰に剣をぶら下げている。余り武器屋になど足を踏み入れた事もないようで、男はキョトキョトと並べられた商品を見始めた。主人はしばし無言になり、今入って来た優男と目の前の無愛想な女戦士を見比べてみた。

 この店に並べられた商品は――中には他から買い付けた物もあるが――ほとんどが店の裏にある鍛冶場で、この主人が息子達と一緒に鍛え上げた物なのだ。都の大きな店に比べれば、品数は劣るかも知れないが……、

 ――ひとつひとつの出来栄えなら負けてねぇ。

 と、自負している。

 だからそんな品物には愛情を持っているし、出来ればこれぞと思う相手に使ってもらいたい。

 主人は再び二人の客を見比べた。

 優男の方はおどおどと緊張した面持ちで、主人が客寄せの為に並べた派手な作りの剣ばかりを眺めている。性能よりも値段の方を高めに設定してあるそれらの剣を、実に興味深そうに見つめる横顔を見て主人は、

 ――あの気弱そうな顔は、一押しすればいける。と思った。

 女戦士の方を見れば、相変わらず大した興味もなさそうな顔で棚を眺めている。

 主人は考えた。いくら使ってもらいたいと思っても、相手にその気が無いのじゃ仕方ない。それに、なんのかんのと言っても所詮は商売だ。我が儘なやり方が出来るほど、我が家の家計は楽じゃない。

 トキアが闇の王国に変わってから、税率は一気にはね上がった。そうじゃなくとも苦しいところに、軍隊は各地の武器屋に異常な数の武器を収めろと命じてくる。要求をはねつければこちらの首がはねられるし、仕方がないから、寝る間も惜しんで粗悪な作品を大量生産するしかない。その合間を縫って何とか自分の店に並べる品を作るのがやっとで、昔やっていたように他の店へ流して売る事が出来なくなってしまった。

 ――使って欲しいの欲しくないのと言ってたら、おまんまは食えない。

 主人は、少女が瞳をキラキラと輝かせながら飾られた剣へと伸ばした手を、――危ないから触っちゃいかん、と言って軽くピシャリと叩いてから、商売道具の蛭子顔をにっこりとさせ、優男の方へと足を踏み出した。

「それにしても、この店は偽物ばかり置いているな」

 結構、大きな声だった。主人はガクンと顎を落とし、声の主を振り返った。

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