EP 8
開廷! 悪を裁く法廷
翌朝。タローポリス最高裁判所、第一法廷。
傍聴席は立錐の余地もないほど満員だった。
キュララがSNSで「今日の裁判は伝説になるよ!」と拡散したおかげで、国民の注目はこの法廷に釘付けになっていた。
「被告人、前へ」
法壇の上から、最高裁判官・坂上真一の重低音が響く。
黒い法服に身を包んだ彼は、昨日までの「着流しの遊び人」とは別人のような、厳格な威圧感を放っていた。
証言台に立ったのは、ゴズマ興産社長のオーク・ゴズマと、元宮廷魔導師ガランド。
二人は昨夜の戦闘でボロボロだが、その目はまだ死んでいない。むしろ、狡猾な光を宿して周囲を睨め回している。
「検察官、冒頭陳述を」
「ハッ! 被告人らは、孤児院への不当な立ち退き強要に加え、違法賭博、さらには孤児たちの臓器を売買していた疑いがあります。証拠として、現場から押収された『裏帳簿』を提出します」
検察官が、血の付いた革張りのファイルを掲げる。
傍聴席から「なんて酷い」「悪魔だ」と悲鳴が上がる。
勝負あったかと思われた。だが――。
「異議あり!!」
ゴズマが被告人席から大声を上げた。
「裁判長! それは捏造です! 我々はハメられたのです!」
坂上は眉一つ動かさず、ゴズマを見下ろした。
「……捏造だと? 具体的に述べよ」
待ってましたとばかりに、ゴズマとガランドが喚き散らす。
「あの帳簿は、昨夜我々のオフィスに不法侵入した暴徒たちが持ち込んだものです! 我々は孤児院の子供たちを保護しようとしていただけだ!」
「そうだ! 『シンさん』とかいう着流しの男が、ゴロツキ共を率いて襲撃してきたんだ!」
ガランドが包帯で巻かれた手首を突き出し、悲劇のヒロインのように叫ぶ。
「見てください、この傷を! 奴らは野蛮な暴力で我々を脅し、無理やり罪を認めさせようとした! T-SWATとかいう警察の連中もグルだ! 手柄欲しさに、無実の善良な市民をスケープゴートにしたんだ!」
法廷がざわつく。
「警察の横暴か?」「まさか捏造?」
悪党たちの迫真の演技に、一部の傍聴人が動揺し始める。
「弁護人、リベラ。貴様の考えは?」
坂上が視線を向けると、弁護席のリベラが静かに立ち上がった。
「……被告人の主張が真実であれば、重大な冤罪事件ですわね。ですが……証明できるのですか?」
「証明も何も、あいつらが真犯人だ! 裁判長、これは権力の横暴だ! あの『シンさん』とかいう男こそ、裁かれるべき犯罪者なんだよ!」
ゴズマが机を叩き、唾を飛ばして叫ぶ。
自分たちの悪事は棚に上げ、正義を行った者たちを泥棒呼ばわりする。
その醜悪な姿に、傍聴席の最前列にいたイグニスが怒りで椅子を握りつぶしそうになり、キャルルが舌打ちをする。
だが、坂上は静かだった。
あまりにも静かすぎて、法廷の空気が冷えていくほどに。
ダンッ!!
乾いた小槌の音が、嘘と罵声を断ち切った。
「静粛に」
坂上の声が、法廷の空気を凍らせる。
彼は冷徹な瞳で、悪党二人を射抜いた。
「……そうか。それが、貴様らの言い分か」
ゴズマたちは、その眼光に一瞬怯んだが、すぐに開き直って顎を上げた。
「そ、その通りです! 我々は被害者だ! 正義の裁きを求めます!」
坂上はゆっくりと頷いた。
そして、口元に微かな、しかし獰猛な笑みを浮かべた。
「そうか……。ならば、その『シンさん』とかいう男に、直接話を聞かねばならんな」
ゴズマとガランドが顔を見合わせる。
「は? ……さ、裁判官様? 何を……?」
呼べるわけがない。
奴らはそう思っていた。あんな裏社会のゴロツキが、神聖な最高裁判所に来られるはずがない、と。
だが、坂上はゆっくりと席を立った。
そして、黒い法服の留め具に手を掛けた。
「証人喚問の手間は省こう。……被告人、よぉく目を開いて見るがいい」
坂上の手が、法服をバッ!と左右に引き裂いた。




