EP 7
血塗られた帳簿と、鮫島の早撃ち
「ゴミ虫、か……」
シンさん(坂上)は、炎の壁に囲まれた支配人室で、手にしたファイルをパラリとめくった。
その目は、文字を追うごとに氷のように冷たく、そして深淵のような暗さを帯びていった。
『商品番号045:人族、男児(6歳)。心臓……鮮度良。魔族貴族へ納品済み』
『商品番号048:エルフ族、女児(5歳)。眼球……魔導触媒として摘出完了』
『在庫処分:孤児院の立ち退き完了後、残りの“家畜”は全て解体予定』
――臓器売買。
それも、身寄りのない孤児たちを「資源」として消費する、悪魔の所業。
地上げはカモフラージュに過ぎず、彼らの本業はこのおぞましい解体ビジネスだったのだ。
パタン。
坂上はファイルを閉じた。その音が、静寂の中で銃声のように響いた。
「おい、爺さん……その顔色は、ただの脱税じゃなさそうだな」
鮫島がKorthの撃鉄を起こしながら問う。
「ああ。……鮫島。この国には死刑制度はあったか?」
「一応な。だが、最近は適用例がねぇ」
「そうか。なら――俺が復活させる」
坂上が顔を上げた。
そこに「遊び人のシンさん」の顔はない。
かつて数百の部下を背負い、理不尽な死と向き合い続けてきた、修羅の指揮官の相貌があった。
「おやおや、怖い顔だ」
扉の前に立つS級魔導師――元宮廷魔導師ガランドが、歪んだ笑みを浮かべる。
「見たようだな? だが、それがどうした? 親のいないゴミを有効活用してやっているんだ。社会貢献だよ」
「……貴様」
「金持ちの魔族は長生きしたくてねぇ。新鮮な子供の内臓は高く売れるんだよォ! ヒャハハハハ!」
ガランドが杖を振り上げる。
紫色の魔力が渦を巻き、巨大な火球が形成される。
「消え失せろ! 証拠と共に灰になれぇぇ!!」
「――させん」
坂上が動くより早く、乾いた破裂音が轟いた。
パンッ! パァン!!
鮫島のファニングショット(高速連射)だ。
一発目は火球の核を撃ち抜き、暴発させる。
二発目はガランドの杖を持つ手首を正確に貫いた。
「ギャアアアアッ!? 俺の手がぁぁ!!」
ガランドが杖を取り落とし、手首を押さえてのたうち回る。
魔法使いは詠唱と杖がなければただの脆弱な男だ。
そこへ、黒い風が肉薄した。
「子供を、家畜と言ったな」
シンさんが間合いを詰めていた。
手にしたモップの柄が、唸りを上げて空を切る。
「ヒィッ! 待て、金だろ!? 金ならやる! いくら欲しい!?」
「金など要らん。俺が欲しいのは――」
ザシュッ!!
モップの柄が、ガランドの鳩尾に深々と突き刺さった。
北辰一刀流・突き技『牙突』の要領で放たれた一撃は、魔導師の肋骨を砕き、肺の空気をすべて吐き出させる。
「カハッ……!?」
「貴様の、罪を償う時間だ」
白目を剥いて崩れ落ちるガランド。
坂上は冷徹に見下ろすと、無線に向かって低い声で告げた。
「キャルル、裏口の車を回せ。キュララ、今の会話は撮ったか?」
『ばっちり! もう吐き気がするくらい鮮明にね! これ流したらサーバー落ちるかも……』
「法廷での証拠にする。まだ流すな」
坂上は血塗られた帳簿を懐にしまい、倒れているガランドの胸ぐらを掴んで引きずり起こした。
「鮫島、こいつも連れて行く。明日の法廷の『主賓』だ」
「……了解。手錠は俺の予備を使ってやるよ。きつく締めてな」
倉庫の外では、パトカーのサイレン(魔法警笛)が鳴り響き始めていた。
イグニスが暴れまわったおかげで、正規の騎士団が到着したようだ。
「ずらかるぞ。……ここからは、俺たち『司法』の出番だ」
坂上は着流しの裾を翻し、魔窟を後にする。
その背中の『仁王』は、かつてないほどの怒りの業火を燃やしていた。
夜が明ければ、審判の時。
タローポリス最大の公開処刑(裁判)が幕を開ける。




