EP 6
潜入!魔導カジノの地下
タローポリス歓楽街の地下深くに、その「魔窟」はあった。
ゴズマ興産が経営する違法賭博場、その名も『ゴールデン・スライム』。
金と欲望、そして違法な魔薬が飛び交うこの場所の最奥にある金庫に、奴らの悪事の証拠――裏帳簿と、脅迫に使われた魔導具が隠されているはずだ。
「……作戦開始だ。時間は無いぞ」
路地裏の暗がりで、シンさん(坂上)が懐中時計をパチリと閉じた。
時刻は深夜二時。草木も眠る時間だが、地下からは重低音と嬌声が微かに漏れてくる。
「ヒャッハー! 視聴者の皆さーん! 今から潜入捜査始めまーす! スパチャよろしくねー!」
「静かにしろ、バカ天使」
上空でスマホを構えるキュララを、鮫島が無線(魔導通信石)で叱責する。
今回の作戦は、陽動と潜入の二段構えだ。
「よし、第一フェーズ。イグニス、行け」
「おう! 俺様に任せとけ!」
ド派手なアロハシャツ(100円ショップ製)を無理やり着込んだイグニスが、カジノの正面入口へと大股で歩き出す。
その巨体が自動ドアをくぐると、店内の用心棒たちが一斉に色めき立った。
「あぁん? なんだそのナリは。ここは会員制だぞ」
「あー? トイレだトイレ! トイレどこだオラァ!」
イグニスはマニュアル通りの棒読みで叫ぶと、近くにあったルーレット台を片手でひっくり返した。
ガシャアアアン!!
大量のチップと銀玉が宙を舞う。客たちが悲鳴を上げ、警備員たちがイグニスに殺到する。
「侵入者だ! 確保しろ!」
「俺様のトイレを邪魔するなぁぁ!!」
イグニスが両手斧(刃引き済み)を振り回す。もちろん、人は斬らない。あくまで派手に物を壊し、注目を集めるのが仕事だ。
カジノの警備リソースの八割が、この暴れるドラゴンに吸い寄せられた。
「……掛かったな。第二フェーズ、キャルル」
「了解!」
ビルの裏手。換気ダクトの金網が外され、小柄な影が滑り込む。
キャルルだ。彼女の月兎族特有の柔軟性と聴覚は、迷路のようなダクト内で遺憾なく発揮される。
(うぅ、埃っぽい……私の自慢の毛並みが……。でも、ボーナスのため!)
彼女は安全靴のつま先を巧みに使い、音もなく匍匐前進で進む。
目指すは最奥の支配人室だ。
「……こちらキャルル。ポイントCを通過。……ビンゴよ、この下から葉巻の臭いと、金の臭いがする」
「よし、待機しろ。俺たちも行く」
シンさんと鮫島は、警備が手薄になった従業員通用口から侵入した。
薄暗い廊下。前方から、イグニスの騒ぎを聞きつけた見回りのオークが二匹、走ってくる。
「おい! そっちは関係者以外……!」
オークが警棒を抜こうとした、その刹那。
シンさんが着流しの裾を翻し、疾走した。
ヒュンッ。
彼の手には、道中で拾ったモップの柄。
だが、その一振りは日本刀の切れ味を宿していた。
「――胴!」
すれ違いざま、モップの柄がオークの脇腹に深々とめり込む。
骨を砕かず、内臓を揺らす絶妙な手加減。
「グェッ……!?」
「眠っていろ」
白目を剥いて倒れるオーク。もう一匹が驚愕し、魔法を唱えようとする。
「ファイ……!」
パスッ。
乾いた発射音と共に、オークの足元でスタングレネード(閃光弾)が炸裂した。
鮫島の援護だ。
「目が、目がぁぁ!」
「遅い」
シンさんが間合いを詰め、モップの柄で首筋をトン、と突く。
オークはその場に崩れ落ちた。
「……流石だな、爺さん。モップでそれかよ」
「弘法筆を選ばず、と言うてな。行くぞ」
二人は音もなく廊下を駆け抜ける。
そして、重厚な扉の前――支配人室にたどり着いた。
「キャルル、降りろ!」
シンさんの合図で、天井の通気口が蹴破られた。
キャルルがスタッと着地し、内側から鍵を開ける。
「クリアよ! 中には誰もいないわ」
「上出来だ」
部屋に入ると、そこは悪趣味な金装飾で埋め尽くされていた。
壁には巨大な絵画。その後ろに、魔導金庫が隠されているのはお約束だ。
「キュララ、金庫のロックを解除できるか?」
『任せてー! 遠隔ハッキング開始……パスワードは「G・O・L・D」……うわ、ベタすぎw』
カチリ、と音がして、金庫の扉が開く。
中には、現金の山と――分厚い革張りのファイルが一冊。
「これだ……」
シンさんがファイルを手に取り、パラパラとめくる。
そこには、孤児院への嫌がらせの指示書、リベラに見せた契約書が偽造である証拠、そして魔族の署名を強制させる「隷属のインク」の領収書があった。
「決まり手だな」
「ああ、これで奴らを豚箱に……」
鮫島が言いかけた時だ。
不意に、部屋の空気が凍りついた。
「――へぇ、ネズミが入り込んだと思えば」
背後から響く、冷徹な声。
入り口に立っていたのは、ゴズマ興産の社長――ではなく、漆黒のローブを纏った痩身の男だった。
その手には、禍々しい紫色の光を放つ杖。
「S級魔導師……! 護衛か!」
鮫島が即座に銃を向ける。
「私の結界を抜け、ここまで来るとは褒めてやろう。だが――」
魔導師が杖を振るうと、部屋の出口が炎の壁で塞がれた。
「生きて帰れると思うなよ? ゴミ虫共」
炎の照り返しの中、シンさんはモップの柄を正眼に構え、静かにニヤリと笑った。
「ゴミ虫とは失礼な。……俺たちは、ただの掃除屋さ」
証拠は掴んだ。あとは、ここを突破して朝日の昇る法廷へ届けるのみ。
カジノの地下で、最後の乱戦が幕を開ける。




