EP 4
最凶のメンバー、集結
「正気か? 爺さん」
T-SWAT本部の汚れたスチールデスクの上で、鮫島は呆れたように書類を放り投げた。
そこに記されているのは、この街でも指折りの「問題児」たちのリストだ。
「職安通いの破壊魔ドラゴン、守銭奴のウサギ、承認欲求モンスターの天使……。これじゃ特殊部隊じゃなくて、猛獣使いのサーカスだぞ」
「適材適所という言葉があってな。艦にも個癖があるように、荒くれ者にも使い道はある」
坂上は着流しの懐から、コンビニで買ってきた「幕の内弁当(タロウマート製)」を取り出した。
「まずは『火力』から調達しに行くか。腹を空かせた猛獣ほど、御しやすいものはない」
***
タローポリス第4公園。
夜風が冷たく吹き抜けるベンチに、その巨体はあった。
「……クルックー? お前らも腹減ってるのか?」
イグニス・ドラグーン(22歳、無職)は、足元に群がる鳩に話しかけていた。
真紅の鱗、立派な角、そして背中の翼。どこからどう見ても強者だが、その背中は丸まり、瞳からはハイライトが消えている。
彼の手には、しなしなになったパンの耳が一枚だけ握られていた。
「隣いいか、兄ちゃん」
ドサッ、と隣に座ったのは、着流しの男――坂上だった。
「……なんだ、オッサン。俺様に説教か? 『若いのに何してる』とか言うなよ、泣くぞ」
「いや、いい月だと思ってな。……これ、買いすぎたんだが、食わんか?」
坂上は膝の上に、温かい幕の内弁当を置いた。
蓋を開けると、唐揚げ、卵焼き、焼き鮭のゴールデントライオングルが湯気を立てる。
イグニスの喉が、ゴクリと鳴った。
「……同情するなら金をくれ、ってな」
「同情じゃない。前払いだ」
坂上は扇子でイグニスの太い腕を軽く叩いた。
「お前さん、力が有り余って仕事がないんだってな? 物を壊すと怒られる、と」
「……ああ。俺様が本気出すと、素材まで灰になっちまうんだよ」
「なら、俺のところで働け。仕事は『ドア破り(ブリーチング)』だ」
坂上はニヤリと笑った。
「悪い奴らが立てこもる頑丈な鉄の扉を、その斧で遠慮なくブチ破る仕事だ。灰にしようが粉々にしようが、誰も文句は言わん。むしろ褒められる」
「……マジか? 壊して、褒められるのか?」
「ああ。それに、三食昼寝付き。週一で焼肉もつけてやる」
イグニスの瞳に、失われていたハイライトが戻った。いや、炎が宿った。
「乗った!! その契約、俺様が預かったぁ!!」
「よし。まずはその唐揚げを食え。……いい食いっぷりだ」
***
次は、冒険者ギルド裏の路地。
街灯の下で、地面に落ちている小銭を必死に探している影があった。
「ない……ない……あと500万貯めないと、素敵な結婚式が……」
キャルル(20歳、月兎族)である。
安全靴を履いたその足取りは軽いが、漂うオーラは悲壮そのものだ。
「お嬢ちゃん、小銭探しか?」
「ひゃっ!? ……な、なによオジサン。ここは私の縄張りよ!」
キャルルは警戒してダブルトンファーを構えた。その動体視力は、坂上の着流しの裾の動きすら捉えている。
「いい動きだ。その脚力と目、活かしてみる気はないか?」
坂上は懐から、一枚の封筒を取り出してヒラヒラとさせた。
中には、福沢諭吉(に似た太郎の肖像画)が描かれたお札が束で入っている。
「なっ……!?」
「特別危険手当、深夜割増、さらに成功報酬は弾むぞ。名目は『結婚資金積立ボーナス』だ」
「け、結婚資金……!?」
キャルルの長い耳がピンと立ち、赤い瞳が¥マークに変わった。
「やります! 殺しですか!? 強盗ですか!?」
「人聞きが悪い。……『掃除』だ。狭いダクトや天井裏を駆け回り、悪党の不意を突くポイントマン(尖兵)。お前の安全靴で、悪党の顎を砕いてほしい」
「お安い御用です! その靴、血で染めてみせましょう!」
キャルルは封筒をひったくると、満面の笑みで敬礼した。
***
最後は、街を見下ろすビルの屋上。
スマホ型の魔導具に向かって、天使が独り言を呟いていた。
「あー、みんなー、こんばんはー。今日もスパチャありがとー……はぁ、最近ネタ切れで同接落ちてきたなぁ……」
キュララ・アルセルラ(20歳、天使族)。
輝く翼と聖騎士の鎧を纏っているが、その表情は数字に追われる現代人のそれだ。
「ネタに困っているようだな、お嬢ちゃん」
屋上のドアが開き、坂上が現れた。
「誰!? 今配信中なんですけど!?」
「俺はこれから、この街で一番デカい『山』を動かす。……その特ダネ、独占配信したくはないか?」
坂上の言葉に、キュララの指が止まった。
「……特ダネ?」
「悪徳不動産、闇カジノ、そして謎の遊び人『シンさん』率いる極秘特殊部隊……。タイトルは『潜入! 闇の組織を壊滅させる瞬間!』なんてどうだ?」
「映える! めっちゃ映えるじゃんそれ!」
キュララは空中に浮き上がり、カメラを坂上に向けた。
「でも、タダじゃ動かないよ? 私のギャラ、高いよ?」
「報酬は『再生数』と『社会的正義』だ。お前のカメラで犯人を追い詰め、デジタルタトゥーを刻んでやれ。警察公認のコラボだ」
「公認!? やるやる! 警察コラボとか絶対バズる!」
***
一時間後。T-SWAT本部倉庫。
集められた三人と、頭を抱える鮫島、そして不敵に笑う坂上がいた。
イグニスは配給された乾パンをバリボリと齧り、床に粉を撒き散らしている。
キャルルは支給された装備品のカタログを見ながら「これ売ったらいくらになるかな」と電卓を叩いている。
キュララは「ここが秘密基地でーす! 汚いけどエモい!」と勝手に配信を始めている。
「……動物園だな」
鮫島が紫煙を吐き出しながら呟いた。
「だが、牙はある」
坂上はスチールデスクの前に立ち、パンと手を叩いた。
その瞬間、空気が変わった。
歴戦の艦長が発する、絶対的な指揮官の威圧感。
騒いでいた三人が、ビクリとして動きを止める。
「総員、注目! これより作戦会議を行う!」
坂上の声が、倉庫の隅々まで響き渡った。
「我々の任務は、法で裁けぬ悪を討ち、街の膿を出すことだ。やり方は任せる。派手に暴れろ。だが――」
坂上は、イグニス、キャルル、キュララ、そして鮫島の顔を順に見渡した。
「一人も死ぬな。……いいな?」
その言葉に、イグニスがニヤリと笑い、キャルルが安全靴を鳴らし、キュララがウインクをし、鮫島がリボルバーの撃鉄を起こした。
「了解!」
不揃いな、しかし力強い返答。
ここに、最強で最凶の『シンさん一家』――タローポリス特別機動部隊が結成された。




