EP 7
折れた魔刀とSWATの乱入
カィィィィィンッ!!!
月夜を震わせたのは、爆発音ではなかった。
硬質で、悲鳴のような、金属の断末魔だった。
一瞬の静寂。
宙を舞ったのは、赤く輝く魔刀『吸血鳥』の上半分だった。
回転しながら地面に突き刺さった刃は、光を失い、ただの鉄屑へと成り果てた。
「な……!?」
ゼフィルス伯爵が、手元に残った折れた柄を呆然と見つめる。
魔力を帯びた最強の妖刀が、魔力を持たないただの鉄の棒に、真正面から叩き折られたのだ。
「ば、馬鹿な……!? 私の魔刀が……!」
その喉元に、ギラリと光る切っ先が突きつけられた。
シンさん(坂上)だ。
着流しの裾を夜風になびかせ、息一つ乱さず、冷徹にゼフィルスを見下ろしている。
「……刀ってのはな、鉄を鍛える前に心を鍛えるもんだ」
シンさんの声が、静かに響く。
「血に飢え、慢心し、力に溺れたその剣……。俺の『備前長船』の前じゃ、ガラス細工と同じよ」
「ひっ……!?」
ゼフィルスが腰を抜かし、芝生の上を後ずさる。
殺される。この男の目は本気だ。貴族だろうが外交官だろうが、関係なく斬る目だ。
「く、来るな! 私は外交官だぞ! 特命全権大使だぞ!」
恐怖に駆られたゼフィルスは、なりふり構わず叫んだ。
「衛兵! 衛兵は何をしている! この狂人を捕らえろ! 外交官への殺人未遂だぞ!!」
その叫びに呼応するように、ドカドカと足音が響いた。
「動くな! T-SWATだ!!」
会場の扉を蹴破り、武装した警官隊がなだれ込んできた。
先頭に立つのは、ハンドガンを構えた鮫島勇護。後ろには斧を構えたイグニス、トンファーを持ったキャルルが続く。
「助かった……!」
ゼフィルスの顔に、安堵と、そして再び傲慢な色が戻る。
警察が来た。ならば、この無法者は終わりだ。
「おい警察! 遅いぞ! この男だ! この男が私を殺そうとした! 直ちに射殺しろ!」
ゼフィルスが指差す。
鮫島は銃口を向けたまま、ゆっくりと歩み寄り――。
「……確保ォ!!」
ガチャンッ!
手錠がかけられたのは、シンさんの手首だった。
「……あ?」
シンさんが、わざとらしく目を丸くする。
「現行犯逮捕だ。容疑は『外交使節団への暴行』および『殺人未遂』。……言い逃れはできんぞ、遊び人」
「へっ、年貢の納め時ってやつかよ」
シンさんは抵抗することなく、大人しく手錠を受けた。
その様子を見て、ゼフィルスは高笑いをした。
「ハハハ! そうだ! その通りだ! その薄汚いゴロツキを地下牢にぶち込め! 死刑だ! ギロチンにかけてやる!」
彼は気づいていない。
鮫島がシンさんに手錠をかける際、ほんの一瞬だけ目配せをしたことに。
そして、イグニスが折れた魔刀の破片を、「証拠品」として丁寧に回収していることに。
「連行する! ……被害者の方、事情聴取のため、明日の朝廷に出頭願えますか?」
鮫島が事務的に尋ねる。
ゼフィルスは、勝者の余裕たっぷりに頷いた。
「いいだろう! 私がいかに酷い被害を受けたか、世界中に訴えてやる! この男の処刑命令書にサインするのは私だ!」
シンさんは連行されながら、背中でニヤリと笑った。
罠にかかった。
これで奴は、自らの意思で「法廷」という名の処刑台に上がることになる。
月が雲に隠れ、長い夜が明けようとしていた。
タローポリス最大の「決闘裁判」の幕が開く。




