EP 7
決戦! バロン邸宅へのカチコミ
深夜。高級住宅街の一角に、不気味な静寂が漂っていた。
バロン男爵の邸宅。高い塀と、魔導センサー、そして私兵団による厳重な警備が敷かれた「要塞」だ。
だが、今夜、その鉄壁の守りは破られる運命にあった。
「……時間だ」
邸宅前の闇の中で、着流し姿の坂上が扇子をパチリと閉じた。
隣には、コートの襟を立て、Korth NXSの感触を確かめる鮫島。
そして、彼らの背後には、解き放たれるのを待つ猛獣たちが控えている。
「作戦開始。……派手に行け」
坂上の合図が、静寂を破った。
「ヒャッハー! 待ってましたァ!!」
先陣を切ったのは、真紅の巨体――イグニスだ。
彼は助走をつけると、人間には不可能な跳躍で空を舞い、隕石のごとく正門の前に着地した。
「ピンポンなんてまどろっこしい真似はしねぇ! 俺様が呼び鈴だァ!」
ドォォォン!!
両手斧の一撃が、鋼鉄製の正門を蝶番ごと粉砕した。
爆音と砂煙。警報が鳴り響き、庭にいた警備兵たちがパニックに陥る。
「な、何事だ!?」
「敵襲! 敵襲ーッ!」
「残念、上も見てね☆」
上空から、まばゆいサーチライトが警備兵たちを照らし出した。
キュララだ。彼女はドローン(魔導カメラ)を旋回させ、大音量でスピーカーを鳴らす。
「こんばんはバロン私兵団の皆さーん! T-SWATのガサ入れ実況配信始まりまーす! 悪事の証拠、バッチリ撮っちゃうぞー!」
光と音の攪乱。警備兵たちが空を見上げた隙に、屋敷の屋根裏から小さな影が滑り降りた。
「余所見してる暇はないわよ?」
キャルルだ。彼女は安全靴の底に魔力を込め、音もなく廊下を疾走する。
出会い頭の警備兵の顎を、トンファーでカチ上げ、すれ違いざまに膝裏を蹴り抜く。
「グハッ!?」
「私のボーナス(成功報酬)の邪魔をしないで!」
電光石火の制圧劇。内部の混乱は頂点に達した。
その混乱の中を、悠々と正面突破してくる二つの影があった。
「……道を開けろ」
鮫島が、立ち塞がる兵士たちの眉間や膝を、正確無比な射撃で撃ち抜いていく。
殺さず、確実に無力化するプロの技。
「邪魔だ」
坂上が、拾ったモップの柄を振るう。
襲いかかる剣を弾き、返す刀で鳩尾を突く。北辰一刀流の演舞のように、兵士たちが次々と沈んでいく。
「つ、強い……! なんだこいつら!?」
「退くな! 雇い主を守れ!」
雑魚を蹴散らし、二人は屋敷の最深部――地下室への入り口にたどり着いた。
そこには、明らかに他の兵士とは違う空気を纏う巨漢が待ち構えていた。
全身を魔導アーマーで覆い、手にはガトリング砲のような巨大な魔導銃を持った男。
バロン私兵団の団長、元S級傭兵のギガスだ。
「フン、ネズミ共が。ここが貴様らの墓場だ」
「……爺さん、先に行っててくれ」
鮫島が前に出た。Korth NXSのシリンダーを回し、新たなスピードローダー(弾薬装填器)をセットする。
「コイツは俺がやる。……少し、憂さ晴らしが必要なんでな」
「心得た。……死ぬなよ」
坂上は短く告げ、地下への階段を駆け下りていった。
「ハッ! 警察風情が、俺の『魔導バルカン』に勝てると思うなァ!」
ギガスがトリガーを引く。
ブォォォン! という駆動音と共に、銃口から魔力弾の嵐が解き放たれた。
壁が砕け、調度品が粉々になる。
だが、鮫島はその場にいなかった。
「遅せぇよ」
彼は発砲の瞬間に横へ飛び、遮蔽物から遮蔽物へと移動していた。
ロスの市街戦で培った、対重火器の動き(マニューバ)。
「チョコマカと! 吹き飛べぇ!」
ギガスが弾幕を張り続ける。
鮫島はポケットからスタングレネードを取り出し、ピンを抜いて投げた。
カラン、ボンッ!
強烈な閃光と爆音が炸裂する。
「グオッ!? 目が……!」
一瞬の隙。鮫島が遮蔽物から飛び出した。
距離を詰め、バルカン砲の死角に潜り込む。
「――終わりだ」
パンッ! パァン!!
二発の銃声。
一発目がバルカン砲の魔力供給ケーブルを断ち切り、二発目がギガスのアーマーの隙間――首元の関節部分を正確に貫いた。
「ガハッ……!?」
ギガスが膝から崩れ落ちる。
鮫島は油断なく銃口を向けたまま、倒れた男を見下ろした。
「……いい銃だが、使い手が鈍くちゃな」
彼はタバコを取り出し、火をつけた。
硝煙と紫煙が混ざり合う中、地下から坂上の声が響いた。
『鮫島、確保したぞ。……顧客リストに、製造工場。動かぬ証拠だ』
「了解。……こっちも片付いた」
鮫島は深く煙を吐き出し、ニヤリと笑った。
証拠は揃った。
あとは、これを朝日の昇る法廷へ届けるだけだ。




