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『元イージス艦長(50歳)、異世界で最高裁判官になる。〜背中の仁王が火を吹くぜ! 遊び人シンさんが裁く、太郎国・大江戸捜査網〜』  作者: 月神世一


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EP 5

T-SWAT動く

「と、取引……?」

 エレナが涙に濡れた瞳で、坂上の差し出した名刺を見つめる。

 傭兵のリーダーが、焦ったように怒鳴った。

「騙されんじゃねぇ! 警察と弁護士が組んで何ができる! 薬を持ってるのはバロン様だけだ! そいつらに従えば、ガキは苦しんで死ぬぞ!」

 男の脅しに、エレナの体が強張る。

 恐怖による支配。それを断ち切るため、坂上は静かに、しかし力強く告げた。

「その薬とやらは、本当に弟を治しているのか?」

「え……?」

「先ほど拝見したが、少年の顔色は悪い。魔石病特有の黒斑も広がっている。……その薬は、病気の進行を遅らせているだけで、治してはいないのではないか?」

 図星だった。

 エレナはハッと息を呑む。

 高額な薬を投与し続けても、リュカの容態は一進一退。むしろ、徐々に弱っているようにすら見えた。

「我々にはツテがある。太郎国の最先端医療――サリー王妃直轄の医療チームだ」

「サ、サリー王妃様の……!?」

 それは、この国で暮らす者なら誰もが知る「奇跡の医療」の代名詞だ。

 バロンの怪しげな薬とは、信頼度が天と地ほど違う。

「弟を治したいなら、選ぶことだ。……悪魔の飼い犬として生きるか、俺たちと手を組んで、太陽の下を歩くか」

 坂上の言葉には、不思議な説得力があった。

 エレナは迷い、リュカを見た。リュカは苦しい息の中で、小さく頷いたように見えた。

「……信じます。貴方たちを」

 その言葉が、開戦の合図だった。

「クソがぁ! まとめて死ねぇ!!」

 傭兵たちが激昂し、武器を振りかざして殺到する。

 だが、今の鮫島に迷いはない。

「……交渉成立だ」

 パンッ! パァン!!

 Korth NXSが火を噴く。

 正確無比な射撃が、先頭の男の膝を撃ち抜く。

 同時に、坂上が動いた。

「子供の前だ。少しは静かにせんか」

 ヒュッ。

 手にした扇子が、鉄扇のように硬質化し、襲いかかる男の剣を弾き飛ばす。

 返しの手刀が首筋に吸い込まれ、大男が音もなく崩れ落ちた。

「確保完了」

 わずか十秒。

 傭兵たちは全員、床に転がって呻いていた。

 鮫島は銃をホルスターに戻し、へたり込むエレナに手を差し伸べた。

「……行くぞ。ここはもう安全じゃない」

***

 一時間後。T-SWAT本部倉庫。

 リュカは即座に手配された救急馬車でサリーの病院へ搬送された。

 倉庫のソファには、毛布にくるまり、ホットミルク(坂上の手挽きコーヒー入り)を飲むエレナの姿があった。

「……すまねぇな。俺一人じゃ、ここまでが限界だった」

 鮫島が、デスクに腰掛けてタバコを吹かしながら、悔しげに呟く。

 警察官としての正義感だけでは、彼女の心を縛る鎖までは断ち切れなかった。坂上の助け舟がなければ、最悪の結果になっていただろう。

「何を言う。現場を制圧したのはお前の判断だ」

 坂上がコーヒーミルを置き、倉庫の闇に向かって声をかけた。

「おい、盗み聞きは趣味じゃないだろう? 出てきたらどうだ」

 その言葉に応えるように、物陰から三つの影が現れた。

 イグニス、キャルル、キュララだ。

「……聞いてたぜ、隊長」

 イグニスが、普段の軽口とは違う、低いドスの利いた声で唸る。

「病気のガキを実験台にして、姉ちゃんを脅してたってな……。俺様は馬鹿だが、そういう胸糞悪い話は一番嫌いなんだよ」

 両手斧を握る手に、血管が浮き出ている。

「私もよ」

 キャルルが安全靴のつま先をコツコツと床に打ち付ける。

「お金のためなら何でもするけど、子供の命を食い物にする奴は『害獣』よ。駆除対象だわ」

「拡散決定!」

 キュララがスマホを構えるが、その画面にはいつものフィルター加工はなく、怒りの炎のエフェクトが燃えていた。

 「『パープル・ヘイズ』の被害者の声……これは絶対にバズらせて、社会的に終わらせてやる」

 彼らは「問題児」だ。

 金に汚かったり、暴力的だったり、承認欲求の塊だったりする。

 だが、根底にある「許せない一線」は、鮫島や坂上と同じだった。

 坂上は満足げに頷き、エレナに向き直った。

「お嬢さん。これが我々のチームだ。……少々ガラは悪いが、腕は立つ」

「皆さん……」

 エレナの瞳から、涙が溢れ出した。

 孤独な戦いが、終わったのだ。

 坂上は扇子を開き、作戦地図(バロン邸の見取り図)を指し示した。

「作戦目標は二つ。一つは、エレナ嬢の安全と、弟君の治療を法的に確約させること。これには最強の『盾』が必要だ」

「リベラか」

 鮫島がニヤリと笑う。

「ああ。そしてもう一つは……魔薬カルテル『バロン一味』の完全壊滅。こちらは我々T-SWATという『矛』が担当する」

 坂上の眼光が鋭くなる。

「法で裁けぬなら力で。力で敵わぬなら法で。……総力戦だ。準備はいいか?」

「「「アイアイ・サー(了解)!!」」」

 雨音を消し飛ばすほどの咆哮が、倉庫に響き渡った。

 反撃の狼煙は上がった。

 次は、悪党どもが震え上がる番だ。


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