ヤアタガラス
三浦にとって裁判には勝ったものの失ったものははるかに多かった。会社は口実を作って三浦を一線から外し、退職に追い込み、家族は離れていった。三浦はそれでも支持するファンに支えられて情報発信し、なんとか食いつないでいた。
昔に比べて怒りっぽくなったなあと自分を振り返ることがある。事件のトラウマが三浦を苦しめた。裁判のことは忘れて本来の仕事に打ち込みたかった。
しかし元外務大臣が暗殺された件は放置しておけなかった。三浦がワシントンで得たレッドバレットの情報を送った直後だった。ばれたのかもしれない。深い責任を感じていた。
犯人は若い人物で特に元外務大臣に深い恨みをもって。某宗教団体に恨みをもち。某宗教団体の講演にでたとのことで腹いせに狙ったというのである。自衛隊出身とはいえ素人が自作の散弾銃で元大臣を狙うというのは前代未聞であり、様々の憶測が流れた。
三浦は学生時代、この宗教団体に出入りして内偵捜査のまねごとをしたことがあった。まあ本音は団体にかわいい女子がいたということであったが、団体メンバーと宗教論戦を繰り返して自分の知識と弁論術を磨いた。この宗教団体の教義の一部がエノク書に似ていたことを思い出した。
蛇は堕天使であり、イブと堕天使は交わり、アダムをそそのかした事が原因で人間は楽園から追放されたという部分は、ソドムが堕天使は人間の女が交わったことで堕落し、様々な知識を与えたことでますます堕落していったくだりと似ていた。
レッドバレットは楢崎外務大臣を教団ともども抹殺してしまおうと画策していたのだ。三浦も事件を細かく調べたが迷宮入りしそうだった。警察や検察の情報隠匿の壁に阻まれ前に進まなかった。裏を知っている三浦としてはこの事件は迷宮入りするであろうとは思っていた。
司法解剖の結果と現場の医師の報告が全く異なっていたし、弾道と破損個所の説明が一致しなかった。しかし、真犯人は他に出ず、裁判所は裁判を引き延ばせるだけ引き延ばした。この国の司法も警察もおかしいことは一目瞭然だった。考えられることは日本が政府ぐるみでこの事件を隠ぺいしたとしか考えられなかった。
政府は何を思ったか急に日本でLGBTQに関連する法案を可決し巷では女性がトイレに入りにくくなり、自称女性の男性が風呂に入った事件が新聞に乗り始めた。政治もおかしくなり始めた。
第八章 日本の結社
三浦は再びホピの長老の言葉を思い出し、日本の秘密組織を調べ始めた。ネットでは有象無象の人物、団体がかなりたくさん存在して、どれが本物かどうかわからない。シャーマニズムと言ったっていわゆるオカルトである。そんなものを見分ける知識も能力も三浦にはなかった。明治維新にもいろいろな自称霊能者がいたらしく、また偽書に分類されるとんでも本が多数存在した。
副島種臣という教科書にも乗る著名な政治家が本田親徳という日本式シャーマニズムの研究者に弟子入りしていたことや、吉田茂が伯家神道のある程度のレベルまで学んでいたことなどを聞くと、古い政治家と日本の地下水脈ともいえる古神道となんらかのつながりがあることが感じられたが、だからそれがどうしたというような話で、現実の差し迫った争いには役に立たない知識だった。
三浦は学生時代から遊び惚けて、確固たる道も求めず、時間を無駄にしていた。そんな自分の人生を悔いた。そのうちわかるという祖父の言葉がよみがえってきた。祖父は何かを大事なことを知っており、それをもっと聞いておけばよかったと思った。
裁判中ヤタガラスの名称でかげながら支援した人物がいたことを思い出した。
調べたがサイトは閉鎖されており、連絡がとれなくなっていた。彼は三浦が民事の一審で負けた時にほとんど唯一、支持してくれた人物である。その後支援者が現れては消え、支援者同士がぶつかったりしてかえって裁判の邪魔になり関係を切ってしまった。
一方璃々は着々と世界中を講演して性被害を訴え、セックスについての新しい見識を広めようとしていた。メディアは時流に乗って彼女をヒロインとして紹介した。ジャンヌダルク症候群というやつである。
璃々はセックスを紅茶にたとえた。飲みたくなければ飲ませるなと性の不同意と関連付けた。彼女は自分の生活を肯定するような思想を広め、いくつかの書物を出版していた。多くの若い女性は考えもなく彼女の妄想に自分を重ね賛同していった。彼女は急進的でポリアモリーから同性愛まで受容し、それを社会で普通にしてゆくことがすすんでいると思い込んでいた。
出版物には彼女の写真が多用され、そのモデルのような容姿が人をひきつけた。世界中の出版物にその姿が見られるようになり、彼女の発言はさらに多くの信奉者を生み出した。
ハンスは彼女をおだて、また恐怖も使いながらコントロールした。レッドバレットにとってマスコミのコントロールは優先課題の一つであった。三浦のようなある意味底辺を這いずり回る生活に縁のない人種は社会的権威を信じる一面があり、日本の権力構造をどこか信頼している一面がある。ところがすでにこの国の権力は司法も、行政も、立法も腐敗しきっておりそれを身をもって体験した。
三浦は自暴自棄になっていた。新宿の街を徘徊し、むなしい時間を過ごした。貯金は裁判で半分。残りは妻が黙って持ち去った。
新宿の小久保公園のわき。夜の闇に紛れ、数名の女性たちが立ち並び、軽快な声で客を誘っていた。
「いくら? ホ別2万円?」
少女たちの声が、冷たい空気に溶け込むように響く。 三浦はため息をつきながらも、これまで何度も耳にしてきたこの種の声に、心動かすことなくその場を通り過ぎた。
しばらく歩き続けると、声をかける者がいた。
「…あの」
三浦が振り返ると、一人の女性が三浦を見つめていた。清楚な女性ではあったが、援助交際の女性かと思い訊ねた。
「えっと……いや俺金ないよ今」
しかしその女性は穏に首を横に振った近づいてきた。
「そうではありません。あなたに伝えたいことがあるのです」
三浦は驚きを隠せず、同時にどこか好奇心がわずかに芽生えた。
「じゃあ、飲みながらでもいいですか?」
女性は一瞬だけ視線を落とし、ゆっくりと三浦に近づいて、耳元で低い声で囁いた。
「三浦義明さんですよね。」
「ええまあ。」知り合いだったかなと酔った頭で考えたが思い当たらない。
「目を覚ましてください。あなたにはまだ、やるべきことがあるのです。来てください」
その強い口調に戸惑いながらも、彼女の案内に従い、近くの駐車場へ向かった。駐車場に停まる車の前で、三浦は思わず口にした。
「え? 今から…?」そういうと開いたドアから助手席に乗るようにすすめられた。車のエンジンが静かに始動すると、二人は夜の闇を切り抜け、熊野へと向かって走り出した。
彼女の運転は丁寧で居心地がよかった。車の中で運転しながら自分の素性を話せる範囲で明かしてくれた。
「自己紹介が遅れてごめんなさい。烏丸美弥子と申します。」
「どこへいくのですか?」
「はい熊野までいきます。」
「熊野ってずいぶん遠いですよ。」
「はい、急ぎますので」
「何時間もご一緒するんですから、少し、話せる範囲で結構ですから話していただけませんか。」
「わかりました。」
車が高速にのった。
どう説明していいか迷っているようだった。
「まずあなたはどういう人なんですか。」
三浦が話しやすいように口火をきった。
「熊野のある神社の巫女です。」
「巫女さんがこんな無職のフリーターに何の用ですか?」
「あなたは三浦義明さんでしょう。存じ上げてります。」
「あ、じゃあネットとか見てますよね。強姦魔かもしれないんですよ。」
「思っていませんよ。まあ、聖人君子ともおもっていませんが。」
「なぜわかるんですか?」
「笑うでしょうけど、一種のお告げです。」
この子は変なオカルトにはまっているのかなと三浦は烏丸のハンドルさばきは大丈夫か気になった。
「変な宗教だと思ってるんでしょう。」
「まあ、少しは」
「いいんですよそう思われても。今の時代そういうのって馬鹿にされますから。」
「いやそこまでは・・いいませんが・・」
「あらお優しい。」
はじめて烏丸が愛嬌のある顔を見せた。
「でもあなたは探してらしたんでしょう。レッドバレットを。」
「どうして!」知っているんだ!
眠気が吹き飛んだ。
「その話をするためにお連れしたのです」
三浦はますます混乱した。
ヤタガラスの本当の名前はヤアタガラスという。ヤアタガラスは日本の秘密結社と噂されていた。神武天皇を先導して国家統一を導いた人物、あるいはグループ。皇室を守るために陰ながら活動してきた。彼らは闇夜にカラスと言われるごとく姿を表さない。人数は不明だが多くはない。少数精鋭の秘密主義であるため戦争や政治政変をおこすような争いをコントロールすることはできない、ひたすら天皇護持に使命を特化して陰で動いてきたという。しかし歴史を省みるといつもその使命が果たされてきたわけではない。例えば崇俊天皇は蘇我馬子の陰謀により殺害された。もしヤタガラスに力があったなら蘇我馬子の蛮行を阻止できたはずだ。圧倒的な力の前にはなすすべもない。今回の敵は蘇我の比ではない。ヤタガラスで抵抗できるのか。
一説には時代が下って吉備真備が当時権勢をふるっていた藤原に対抗して組織したといわれているが、これは吉備真備が九尾の狐に幻惑されて流したデマだという。
彼女は自分は単なる使いで詳細は明かすことができないという。
「ついたら統領からお話がありますからそれまでがまんして。」
「わかった。」三浦は急に眠気に襲われ、そのまま寝入ってしまった。
「車ではここまでよ。」
山林の奥深く。言われなければ熊野ということもわからない。舗装されていない車が一台通るだけの道だ。
「ここから1時間ほど歩きます。」
二日酔いで痛い頭を起こして、車の外に出た。空気だけは新鮮で目が覚める。大きく深呼吸した。
「1時間か。」なまった身体に鞭打ちながら、細い烏丸が軽快に歩を進めるあとを歩き始めた。時折立ち止まって烏丸の方が三浦の歩調に合わせる。
「君は何か運動をやっていたのか?」
「ええ平法を少々」
「平法?」
「合気道ににた武術です。」
「ほう、あまり聞いたことがないな。」
「家伝の武術ですから。」
1時間ほど黙って歩いた。
遠くに鳥居が見える。
鳥居に到着するとその先には気の遠くなるような石段が続いている。
「何段あるんだ。」
「三百六十九段」
「意味がありそうだな。」
「ミロクと聞いているわ。」
石段はきちんととの得られたものではない。どう見ても手作業でつくられたものだ。たまたまカジュアルな柔らかい靴をはいていたので良かったが革靴なら足が腫れあがっていた。
そんな石段を彼女はしっかりとした硬めの靴で軽快に上がってゆく。
息を切らさしてゆっくり上る三浦に対し、烏丸は三浦にあわせて振り返りながら上る。烏丸の後ろ姿がまぶしかった。
深緑の枝が周囲をわれ、時の流れから切り離されたような空間だった。
石段を登りきると、一見してかなり古いとわかる神社があった。ここまで木材を運んで神社をつくるには相当大変だったろう。
わきに社務所があり烏丸は中に入った。
「ここですこし待っていて。」
三浦は中の八畳ほどの部屋に通された。
烏丸は白い袴を履き、白いひげをためた老人とともにあらわれる。
「ようこそいらっしゃいました。この宮司をしています烏丸事継と申します。突然お呼びだてして申し訳ありません。」
「こちらこそ、突然お邪魔して失礼いたしました。三浦と申します。」
「突然娘にいかせて驚かれたでしょう。無作法はありませんでしたかな。」
「無作法などとは、わたくしこそ髭も剃らずにこんな格好で申し訳ございません。」
「わたくしどもはこのような山奥で神守りをさせていただいておる者ですが、ここのところ数週間、娘が夜中にうわごとのように東京へ行かねば東京にいかねばと申しておりましてな、先週の日曜日に突然起きて東京に向かったのでございます。理由は後程ヤアタガラス様から直接うかがおうかと思っておりますので、しばらくお待ちください。」
「え?ヤタガラス様に会えるのですか」
「ええ。今少しお待ちください」
八畳の部屋の奥の襖が開かれ、さらににある襖も開かれ、たちまち24畳の広さになった。
三浦は中ほどに移動させられた。
烏丸は一端奥にひっこみ、しばらくして数名の神職者に囲まれながら現われた。
「お待たせいたしました。」
烏丸は少し照れくさそうに三浦の顔をちらりとみたあとくるりと向きを変え神前に向って正座した。他の神職者も神前に向かった。
全員が一斉に拍手をし礼拝をする。三浦もまねて礼拝する。祖父が行っていら礼の仕方と同じで、1揖2拝4拍手。拝に際しては両手を手の裏を上にして肘をはって深く畳に頭を近づける。
巫女の所作を完全に身に着けている烏丸美弥子が前に出てくるりと身を回して三浦の方に顔を向ける。凛とした面持ちで長老の前に正座する。
長老が祝詞を唱え始め、他のものが身体を起こしながらそれに続く。
三浦は思わず息を呑んだ。美弥子の肩がわずかに震えた。
その唇が動き言葉が発せられた。だが、その声は烏丸の声ではなかった。
「……ミカドの系を守れ……カムの律は未だ絶えず……」
三浦は鳥肌が立つのを感じた。
彼女の口を借りて語るものは、確かにこの世のものではない。
「鏡を備えよ、剣を備えよ、玉を護れかし。神と神との戦が始まるぞ。おもいかねのかみ四十八のみたまみなかみの地にてことたまを合わせよ。」
後にはどの神がどうであるとかなどという三浦の理解を超えた問答が長老と続いた。
「おおおおお・・・・・・」拍手と礼で終わる。
烏丸の表情が変り、元に戻った。烏丸は退室し、儀式は終わった。
三浦はようやくしびれた脚をのばさせてもらった。
長老は三浦の近くに歩み寄り椅子のある別室に案内した。
「ささ、おかけなされ。ご説明いたします。」
「いま美弥子に降臨されましたのがおもいかねの神さまでございます。」
「ヤアタガラス様ではないのですか?」
「ヤアタガラス様は一人の神様ではなく、複数の神様の総称でございます。」
長老によればヤアタガラスは一人の個人をいうのではなく、その時々、神霊に導かれる人々との共同体の総称とでもいうべきものらしい。神霊も特定の神霊ではなくある種の神霊のグループで、リーダー格の神はいるが、その時々で必要な神が降臨する。神霊側から統率されている組織で、その時々必要な人材が集まって陛下をおまもりしているとのこと。
「このたびはこの世において三浦様に重要な使命が下されまして、貴方様に来ていただいたわけでございます。」
「自分のような汚れた人間に神の使命が務まるでしょうか。」
「戦乱の世にあって泥をかぶるのは勇者の常にございます。いまや邪悪なる神霊をの戦いの最前線に貴方様はおられます。」
「なんと」
「あなたを陥れた女は九尾の狐が転生したもので、なかなかもって普通の相手ではかないません。」
「九尾の狐?あの韓国ドラマに出てくるやつですか?」
「ええまあ。もとは殷の紂王に付け入り英雄を堕落させたといわれる周公旦のスパイであったものが転生し、璃々という女となって転生し、その眷属が力を貸しているのです。」
「なんと気味が悪い。」転生などというものがあるのか、九尾などという存在があるのかどうかはわからない、しかしここは話を聞いておこう。
「あの女はあなたの名声を足がかりにして、情報の世界で有名になり、コネクションを通じていまや全世界に知られています。」彼女はあっという間に時代の寵児となり、世界中のジェンダー運動で引っ張りだことなっていった。
「それは知っています。彼女が嘘をついてのし上がっているのは私が一番よく知っていますから。」思いだすのも吐き気がする。
「そこで今度はあなたが彼女の嘘をすべて暴いて彼女に恥を書いてもらうのです。」
「しかしどうやって。」
「方法はこちらで用意します。」
「しかし彼女とのことは個人的なことで・・・。」
「いえいえ、彼女の出現には計画性があって、バックにはもともとレッドバレットが控えていたのです。」
「え?」
「そうです。あなたがレッドバレットを追いかけたので狙われたのです。」
「最初から?」
「そうです。最初のニューヨークでの出会いも計算されたものです。」
「え?」
「といっても最初の出会いから彼女は知っていたわけではないんですが。」
そういえばニューヨークでは知人の誘いでキャバクラに行き、メディアの仕事をしたいと言って、猛烈にアピールしてきたが、東京で会ったときにはほとんど話をせずやたら迫ってきたと思えば、こちらの話などあまり聞いていない様子だった。
「彼女は高校時代にアメリカのホームステイ先に送られ語学のトレーニングを受けて表向きジャーナリストとして育てられながら、レッドバレットの手先として使われているのです。」
「彼女は自覚はあるのですか?」
「はありませんでしたが、東京で会う段階でかなり意識的な計画として説明されています。」
「しかしそれがレッドバレットと関係しているとは。」
「それはあなたが核心にせまっている証拠です。何か思い当たる節はありませんか」
「そういえばニューヨークの公文書館でやけに日本の歴史に詳しい老人に会い、エノク書を紹介されました。」
「それはヤアタガラスの神霊がその老人に憑依して語ったのです。レッドバレットの背後にいるのは落ちた天使なのです。」
「私もその説には興味は魅かれましたが、それが現実の世界にどうかかわるのでしょう。」
「相手の正体がわかれば攻め方がわかるというものです。」
「あなたはシオン賢人の議定書を読んだことがありますか?」
「はい、エノク書にたどり着いたときにその本にメモがはさまっていてシオンの議定書を読めと書いてありました。それで読んだのです。」
「あれは偽書と言われていますが偽書ではありません。悪の聖書と言われるもので落ちた天使が降臨して会議で語られたものを、ある神父が聞き取って書いたものです。」
「セックスと、映像と、スポーツで若者の心を政治から話すとかマルクスとニチェとダーウィンを使うということが書かれていましたが。」
「そうです、そしてのインテリ層の破壊はマルクス、ダーウィン、ニーチェを使用すると言われています。この三つで人類の思想と知性を破壊します。」
「それは私も読みましたが。」
「ではお見せしましょう。」
いうや否や長老は三浦に印を組ませ、自らも印を組んで呪を唱え始めた。
三浦の脳内に夢のように神々の歴史が浮かび上がる。天地創造、天使の出現、人間の出現、天使の没落。数千万年にも及ぶ人類史が一気に三浦の頭脳に広がった。人類の歴史は複雑だった。宗教や神話はその断片を伝えているだけで、その中には正しさも間違いもあった。度重なる天変地異と文明の盛衰があった。
しかしながら、勢力は敵に比べるときわめて微弱で、時として敵の勢力が上回り、ヤアタガラスの密使たちがほとんど封じられるか抹殺されてしまったことがある。その一つが蘇我の馬子の頃だという。
戦後も一つの危機があった。陛下の護衛は解かれ物理的に守る方法が全くなかった。ところこのときヤアタガラスの神書がマッカーサーの目に触れた。敵であるはずのマッカーサーが日本の味方となった瞬間である。マッカーサーはフリーメイソンに属しており、フリーメイソンが描く予言がヤタガラスの神書の示す内容と一致したのである。すなわち、日本人が特殊な遺伝子を持っており、メイソンの世界理想を体現していた国家だったことがわかったのである。このフリーメイソンの一グループはこのヤタガラスの神書により自分たちが行ってきた計画の一部が間違っていたことに気づき、戦後全力で天皇家をまもるようになったのだという。
当時日本の分割計画を進めていた各国はマッカーサーにより撤退をよぎなくされた。
この奇妙な展開について長老は言った。
日本が本当に善一筋で誠を貫いていれば日本が負けるということはなかった。
「今回は三浦様に役わりがあると告げられました。」
「ほう何を?」
「日本を潰す計画が進んでいます。それに対抗するために組織を作らなければなりません。あなたの知っておる人で信頼の置けるコネクションを通じて、協力者を募りたいのです。」
「日本を潰す計画とは?国家を超えて日本や欧米の文化を破壊しかつてのソドムのような世界を現出させようとする勢力です。」
ソドムという言葉に三浦は反応した。
「あっソドムですか。堕天使の。」
「そうですおそらくあなたはそれをどこかでお聞きになっていたでしょう。それはヤタガラス様の神霊があなたに予備知識を与えたのです。」
「どうやって日本を潰し、どうやって救うおつもりですか?」
「敵はすでに殲滅AIを開発して試運転を行っています。」
「殲滅型AI?」
「ええ。通称ルシファーと呼ばれています。」
「らしいな。」
「ええ、その名のとおりです、その中心は死海付近にあると言われています。」
「しかし初戦AIなんだろ?並のAIではありません。その究極の目的は少数者による大多数者の奴隷的支配であり、神の地位の確立です。」
「神になろうというのか彼らは。」
「コンピューターの陰に隠れて、本当の彼らが潜んでいると言われています。彼らの動きを察知するのは容易ではなく、コンピューターのみならず人間の精神にも一種の洗脳を施しています。何気ない画面に催眠効果が潜んでいます。」
「では・・」と三浦が言いかけた時、烏丸は立ち上がり、三浦を誘った。
「後は車の中で説明します。」
車になると烏丸は続けた。
「皆神山には戦時中陛下をかくまう地下に皇居が作られていました。現在は閉鎖されていると言われますが、実は戦後科学開発のための基地が再建され現在の皇居からから皆神山地下まで地下鉄が通っているのです。
「大丈夫なのか?寝なくて。」
「そうね、運転してもらえます?ものすごく疲れるのよ。あの後って。」
「皆神山だな。わかった。」
三浦は運転席にのり、ナビを頼りに走り出した。
烏丸は後ろで席を倒してすぐに寝息を立て始めた。
皆神山近くに来た時ちょうど美弥子は目を覚ました。
「寝たか」
「ええ、運転ありがとう。あ。そこを曲がって。」
三浦は指示通りの場所に向かう。
「ここからは歩きよ。」
皆神山と言ったってそれほど高い山ではない。むしろ丘といってもいい。ちょとしたハイキングコースだ。若干運動不足の三浦にはこたえるが、烏丸には朝食前の運動だった。少し歩くと岩の影に烏丸は手を入れた。岩の一部が動き始める。これは気づかないだろう。階段を下りてゆく。




