表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空に咲く蓮と謎  作者: Futahiro Tada


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

エピローグ 蓮の声

エピローグ 蓮の声


     *


 施餓鬼会が終わった午後、香蓮寺の境内には、透き通った光が差していた。本堂の屋根から落ちる影の下、真咲は一人、池のほとりに座っていた。僕はその姿を、遠くから見つめていた。

 蓮池には、いくつも白い花が咲いていた。泥の中から伸びた茎が、まっすぐ空へと手を伸ばし、その先に、静かな光を受けている。

 真咲は、膝の上にそっとウォークマンを置いた。その中にはきっと、おじいさんの声を残したテープが入っているのだろう。けれど、あれはもう再生できない。実は、あのウォークマンを僕は修理したのだけど、結局再生できたのは、真咲が部室で聞いた一回だけで、その後は完全に壊れてしまったようで、再生できなくなったしまったのだ。

 だけど、不思議と焦りや悲しみはなかった。きっと真咲も同じように感じているだろう。

 僕は、池のほとりに座る真咲の方へ向かった。僕が近づくと、真咲もそれに気づいたようだった。彼女は僕の方を向き、少しだけ笑みを浮かべた。僕は特に何も言わず、無言で池を見つめている。

 ……しばらくの沈黙があった後、真咲が口を開いた。

「声って形にならないのよ」

 その言葉を受け、僕は答える。

「……そうだね。でも、耳じゃなくて、心には残るんでしょ?」

 真咲は、静かに微笑んだ。

 壊れたウォークマンを両手で包み、そっと胸元に引き寄せる。

「おじいさんの声も、遼くんの声も、志保さんの声も、きっと誰かの祈りも……みんな、ちゃんと届いていたんだなって、思えたのよ」

 風が吹き、蓮の葉が音もなく揺れた。

 真咲は立ち上がり、ウォークマンを胸に当てたまま、そっと手を合わせ、静かに声を出した。

「ありがとう」

 それは誰に向けられた言葉なのか、僕にはわからなかった。でもそれでよかった。

 遠くで鐘の音が鳴った。次の季節が、すぐそこまで来ていた。九月も終盤になり、夏の色は少しずつ薄れている。秋が始まろうとしているのだ。

 真咲は一歩、境内の坂道を降りていく。

 もう過去に縛られるためではなく、これから誰かのために、自分の声で祈りを届けるために。


 紺色のスカートが、秋風にそっと揺れたーー


〈了〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ