断罪イベント365 ― 第8回「偽手紙の矛盾」
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
壇上の王子は勝ち誇った顔で、封書を掲げた。
「この手紙こそ、彼女の不貞の証である!」
観衆がざわつく。
「出た、紙切れシリーズ!」
「昨日は首飾り、今日は手紙か!」
黒幕令嬢は得意げに微笑み、扇を口元に添える。
「殿下、それで決まりですわ」
王子は封を切り、咳払いして朗々と読み上げた。
「『愛しの殿へ――』」
……沈黙。
一瞬、空気が凍る。
次の瞬間、前列の貴族が椅子を鳴らして立ち上がった。
「待った! その宛名、おかしくないか!?」
観衆が一斉にどよめいた。
「彼女、いつも“閣下”って書くんだぞ!」
「そうそう、それにもっと字が綺麗だ!」
「殿って……距離感ちがうだろ!」
王子の顔色がみるみる赤くなる。
黒幕令嬢は必死に叫んだ。
「に、似てますわよね!? 殿と閣下! ほら、ほら!」
観衆「似てねぇ!」
「小学生の言い訳か!」
別の貴族が冷静に指摘する。
「インク、まだ乾いてないな。光ってるぞ」
「封蝋もべったりしてる!」
観衆「今朝焼き立て証拠じゃん!」
「どこのベーカリーだよ!」
笑いが爆発する。
王子は真っ赤な顔で手紙を握りつぶしかける。
婚約者はすっと立ち上がり、扇を閉じて一言。
「殿下、私は殿下を裏切ったことなど一度もございません」
その凛とした声が会場を震わせる。
観衆はどっと拍手。
「敬称ひとつで大逆転!」
「ばかばか王子、今日も完敗!」
黒幕令嬢は最後のあがきで叫んだ。
「で、でも筆跡は本物ですの!」
観衆「敬称ミスでアウトだろ!」
扇の骨がパキリと折れ、黒幕令嬢は崩れ落ちた。
会場は爆笑と拍手の渦。
もっと字の練習した方がいいよ。by転々丸
総評:敬称ひとつで1000%逆転
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m