表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

ルキの優しさ

初夏の眩しい翌朝、起きようとするが頭がずいぶん重く感じる。

昨日雨に濡れたせいかもしれない。


シキ君の家に行ったんだよな…。

ぼんやりと昨日の事が夢みたいだったなと思い返していた。


ロマは少し無理をして学園に登校した。

「ロマ君顔色悪いよ、大丈夫?」

とココナが心配そうに声をかけてくれた。

「ありがとう。平気だよ」

ココナちゃん、やはり優しい。


通常の授業を何とかこなしてやっと放課後。

ロマは美術部の窓際の席でスケッチブックを手にしていた。しかし顔色は少し火照って、額に汗が滲んでいる。

美術部の展示会準備や早めの文化祭の準備で忙しいのに。


「ロマ君、展示会のポスター、明日までにラフ描いてくれる?」

美術部のミカソ先輩が笑顔で頼んできた。

ロマは頭がぼんやりしながらも、ニコッと笑う。

「はい!えっ、明日まで?……頑張ります」

そうだった、美術部の展示会が夏休み明けに控えているんだ。

その後は文化祭も控えていて、今から準備していたんだっけ……。

せっかく頼って貰えたんだ。

断ったらもう頼ってもらえなくなるかも……。


ふいに中等部で無視されたり笑いものにされた記憶がよみがえり、ロマは無理に笑顔を作る。


さらに同じ美術部のアレンがやってくる。

「なあ、ロマ。備品整理、今日手伝ってよ。頼む!」

「え、うん……いいよ、大丈夫……!」

ロマの声は少し震えていたが、断れずうなずく。

頭がクラクラするのに、笑顔を崩さない。


なんとか頑張らないと。


嫌われたら終わりだから……。


この居場所が無くなってしまったらと思うだけでもう耐えられない。


「ロマ、ちょっと来い」

側で様子を見ていたルキの乱暴な声に、ロマはびっくりした。

「え、ルキ君?どうしたの?」

「いいから」

ルキはロマの手を軽く引き、部室の外へ連れ出す。廊下の突き当たり、静かな階段の踊り場まで来ると、ルキはロマを振り返る。

「顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないか。無理をするな。」

ロマはハッとして笑顔でごまかそうとする。

「だ、大丈夫だよ!ちょっと頭がぼーっとするだけで……みんなの頼み、断ったら嫌われるかもだから」

ルキはため息をつく。

「ここでちょっと座って待ってろ」

ロマを休憩スペースの椅子に座らせ、自販機で冷たいスポーツドリンクを買って来てくれた。

「飲んで」

「え、ルキ君……いいの?」

「いいに決まってるだろ!飲まねえと倒れるぞ」

ルキの声はそっけないが、眼鏡の奥の瞳は心配そうにロマを見つめている。

ロマはスポーツドリンクを受け取り、ゴクゴクと飲む。

冷たい液体が喉を通り、頭のふらつきが少し落ち着いてくる。


「……ありがと、ルキ君。俺が具合悪いって気付いてくれたんだ」

ルキ君って最初は冷たかったけどやっぱり良い人じゃん。


ロマが小さく笑うと、ルキは目を逸らし、頬を少し赤くする。

「ポスターのラフは俺がやる。備品整理も後でシキに押しつけとく」

「え、でも……シキ君に迷惑かけるよ。ルキ君も忙しいよね?」

「何言ってんだ。体調悪い時は休め。一人で抱え込むな」

ルキの言葉はぶっきらぼうだが、口元に小さな笑みが浮かぶ。

ロマの胸がじんわり温かくなる。

ルキ君、こんなに気遣ってくれるなんて。


「ルキ君、ありがとう。なんかルキ君といると安心するよ」

ロマがまっすぐ言うと、ルキの耳が真っ赤になっている。

「……っ!さっさと休めよ」

ルキはそっぽを向いて眼鏡の位置を直す仕草をする。

ルキの優しさを思うと、昔のシキ君と一緒にいた時の写真の笑顔を思い出した。


その時、廊下の向こうからシキが現れる。

桜色の髪が傾いた陽に光り、紫色の瞳がロマとルキを捉える。

「ロマ君、ルキ、こんなところでどうしたの?」

シキの穏やかな声に、ルキが一瞬硬直する。

「ちょっと体調悪かったんだけど、ルキ君が飲み物くれて。元気出たんだ。もう大丈夫」

ロマは微笑んで言った。

「それなら良いんだけど」


シキの瞳がルキに向き、柔らかく微笑む。

「ルキは気が利くよね。僕も小さい頃に風邪ひいた時とかよく助けてもらったよ」

「うん!嬉しかった」

ルキがふいっと遠くを見て恥ずかしそうにしている。

「ロマ君、無理しないでね。美術部、みんなで支えるから」

「シキ君、ありがとう」


ルキはシキに美術部の備品整理を頼んでくれた。

もう用が済んだとばかりに部室へ戻っていく。

だがその背中はどこか軽やかだった。

「ルキ君!ありがとうね!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ