第45話 ロマの答え
決意した朝、ロマはいつもより早く学園に着いた。
誰もいない教室で静かに心を落ち着かせる。
ーー今日、二人に返事をする。
* * *
その日の放課後、美術部の活動を終えたロマは、ルキとシキに声をかけた。
「二人とも……ちょっと、話したいことがあるんだ」
胸が、激しく鳴っている。
でも、もう逃げたくない。
「……うん」
「わかった」
三人だけが部室に残った。
弱々しい夕陽が窓から差し込む。
空は徐々に夜に染まっていく。
ロマは二人の前に立ち、深呼吸をした。
「あのね……ずっと考えてた」
声が、少し震える。
「二人に告白されて……嬉しかった。本当に、嬉しかった」
ルキとシキが、じっとロマを見つめている。
「でも、選べなかった」
ロマは拳を握りしめる。
「ルキのことも、シキのことも、どっちも大好きで……」
涙が、にじむ。
「どっちかを選んだら、もう一人を傷つけることになるから。そんなの……俺、耐えられないよ」
ルキが一歩前に出た。
「ロマ……」
「俺は二人のことが好きだ」
ロマはルキとシキの手を取って続けた。
「……これが、今の俺の素直な気持ち」
ラベンダー色と紫の瞳を見つめる。
ルキの水色の髪と、シキの桜色の髪が、淡く夕陽に輝いている。
「ただ、シキとルキと一緒に居られるだけでも本当に幸せなんだよ」
静寂が落ちる。
「二人の気持ちに、精いっぱい応えたい。でも……選ぶっていう形じゃなくて」
ロマは唇を噛む。
「こんなの、わがままだってわかってる。二人を困らせるって」
「でも……」
声が詰まる。
「俺は三人で笑ってた時間が、一番好きなんだ」
涙が零れ落ちた。
「ごめん……どっちにしろ傷つけたよね」
しばらくの沈黙。
ルキが、小さく息を吐いた。
「……ロマは、本当に馬鹿正直だな」
その声は、怒っているようで――でも、どこか優しかった。
ルキは髪を掻きむしり、天井を見上げる。
「俺さ、正直言うと……ロマを独り占めしたかった」
ロマが息を呑む。
「ロマの隣にいるのは俺だけで、ロマの笑顔も、全部俺だけのものにしたかった」
ルキの声が、少し震える。
「でも……」
ルキはシキを見た。
「シキは、俺の兄貴だ。ロマのおかげで、シキとのわだかまりが解けた」
シキが静かに頷く。
「シキとも、仲良くしたい。今より、もっと」
ルキはロマを見つめて小さく笑った。
「俺も、お前の考えを受け入れる」
「ルキ……」
「ただし」
ルキが一歩近づく。
「俺は諦めないからな。いつか、お前が俺だけを選ぶまで」
その言葉に、ロマの胸が熱くなった。
シキが、静かに歩み寄る。
「僕……実は、不安だった」
シキの紫色の瞳が、揺れている。
「ロマは、ルキの方が好きなんじゃないかって」
「えっ……」
「だって、ルキはいつもロマの隣にいた。キールとしても、ロマをずっと支えてきた」
シキは自嘲するように笑う。
「それに僕は……後から自分の気持ちに気づいたから」
「シキ……」
「でも」
シキはロマの手をぎゅっと握り返した。
「ロマがそう言ってくれて……嬉しい」
温かい手のひら。
「ロマが再びルキと繋げてくれた。また失いたくない……」
シキはルキを見て、微笑んだ。
「二人が大好きだよ」
シキはロマの目をまっすぐ見つめる。
「だから……ロマの望む形で、一緒にいよう」
涙が、止まらなくなった。
「シキ、ルキ……ありがとう」
ロマは声を震わせる。
「俺……本当に、わがままで……」
「いいんだよ」
シキが優しく微笑む。
「ロマは、自分の気持ちに正直でいればいい。僕もそうする」
「そうだ」
ルキもぶっきらぼうに言う。
「お前が笑ってくれるなら、今はそれでいい」
ロマは二人を見た。
ルキの真っ直ぐな目と、シキの優しい微笑み。
――ああ、やっぱり。この二人が大好きだ。
「……これからもいっぱい一緒にいようね」
ロマが涙目で微笑み、小さく呟くとルキが肩をすくめて手のひらで顔を覆った。
「ロマはもっと色々自覚を持て」
「それは同感だな」
シキが顔を赤くして窓の外を見る。
「どういうこと?」
「お前が」「君が」
「「可愛過ぎるってこと」」
ロマはシキとルキにぎゅっと抱きしめられた。
「わっ!それは反則だよ!!」
そして顔を見合わせて、笑った。
はっきりとした答えはまだ出ていない。
これから先、どうなるのかも分からない。
でも――
今は、これでいい。
三人で笑い合える。
三人で夢を描ける。
それだけで、幸せ。
「そろそろ帰ろうか」
シキが上着を着て鞄を持つ。
「今晩良かったらカフェ・白猫でご飯食べようよ」
ロマが明るく言うと、ルキが頰を赤らめた。
「……おう」
「ありがとう、ロマ」
シキが嬉しそうに笑う。
三人は肩を並べて、部室を出た。
廊下に、三人の影が重なる。
校舎の窓から見える空に、最初の星が瞬いた。
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このお話で一つの区切りですがもう少しエピソードが続く予定です。




