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色彩のきずな  作者: 潮騒めもそ


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第44話 青の夜明け

 時計の針が午前三時を指している。

 ロマは布団の中で何度も寝返りを打った。

 目を閉じれば、二人の顔が浮かんでくる。

 ルキの不器用な笑顔と、シキの優しい微笑み。


 ――彼らのことが好き。


 ベッドから抜け出し、勉強机に向かい合う。


 月明かりが窓から差し込んで、机に淡い影を落としている。

 卓上灯を点けてスケッチブックを広げた。

 鉛筆を手に取る。

 冷たくて、でも馴染む感触。

 何を描くのかは決まっている。

 手を動かさずにはいられなかった。

 線が次々と生まれる。

 何かの衝動に駆られるように描かれる線たち。


 水色の髪。

 切ないラベンダー色の瞳。


 ――ルキ。


 線は止まらない。

 ルキの横顔が紙の上に現れていく。

 いつも少しぶっきらぼうで、誰よりも真っ直ぐな目をしている。

 文化祭の夜、震えながらキスをしてくれた。

 「好きだよ、ロマ」って、真剣な顔で言ってくれた。

 胸が、きゅっと締め付けられる。

 ルキといると、安心する。

 中等部の頃、キールの動画を見て元気をもらっていた。

 ずっと、俺を支えてくれていた。

 それがルキだったと知った時、どれほど魂が震えたか。

 

 ロマはルキのページをスケッチブックから切り離した。


 新たなページに今度は、桜色の髪を描く。

 柔らかい線。優しい曲線。

 落ち着く紫色の瞳。


 ――シキ。


 シキの笑顔が、紙の上で微笑む。

 いつも穏やかで、でも芯が強い。

 空き教室で告白してくれた時、あんなに真剣な目をしていた。

 「君を、諦めない」って。

 シキといると、ときめく。

 一緒にチョコレートパフェやケーキを食べた時も、

 海に行った時も、

 サバイバルゲームの授業の時も、

 隣にいるだけでいつだって胸がドキドキした。

 ずっとどこか特別だったんだ。


 二枚のスケッチを並べて見つめる。

 ルキとシキ。

 どちらも大切で、どちらも欠かせない。


 ――どちらか選ばなきゃいけないの?


 鉛筆を置き、頭を抱える。

 二人とも、本気で俺のことを想ってくれている。

 それがわかるから、余計に苦しい。

 どちらかを選べば、もう一人を傷つける。

 そんなこと、できるわけがない。

 でも、こんな中途半端な状態のままでいるのも、二人に申し訳ない。


 ロマはシキのページをスケッチブックから切り離した。


 今度は何も考えず、ただ手を動かす。

 気づけば、三人の姿が描かれていた。

 真ん中にロマ。

 両脇にルキとシキ。

 三人で肩を並べて笑っている絵。


 ――俺、やっぱり三人の時間が好きだったんだ。


 

 思い出の海に行った時。

 ルキの誕生日を一緒にお祝いした時。

 選択体育のサバイバルゲームの授業。

 文化祭の準備をしていた時。

 三人でいる時間が、一番楽しかった。


 もうあの頃には戻れない。


 ルキとシキは、俺に告白してくれた。

 それは、友達としてじゃなく、恋人として一緒にいたいってこと。


 俺も、二人のことが大好き。

 

 ロマは絵を見つめた。

 中等部の頃の自分が、ふと頭をよぎる。

 誰にも話しかけられず、一人で昼ご飯を食べていた。

 クラスメイトに笑われて、無視されて。

 「自分なんて、誰からも必要とされてない」って思ってた。

 人を信じるのが怖かった。

 また嫌われるんじゃないか。

 また一人になるんじゃないかって。


 でも、ルキとシキは違った。

 ルキは、俺が落ち込んでいる時、いつも隣にいてくれた。

 シキは、いつでも優しくて、俺の描いた絵を「素敵だね」って言ってくれた。


 二人は、俺を見捨てたりはしない。

 ――それなのに。

 ロマは唇を噛む。


 それなのに、俺はまだ怖いんだ。


 選んだ相手が、本当に俺のことを好きでいてくれるのか。

 選ばなかった方は、俺のことを嫌いになるんじゃないか。

 また一人になるんじゃないか。

 過去の傷が、まだ消えてない。

 鉛筆を握りしめる。

 指先が、少し震えている。

「……俺はどうすればいいの」

 声に出して呟いた瞬間、涙が零れた。

 答えが出ない。

 どうしても、答えが出ない。

 

 ロマは三人の絵をもう一度見つめた。

 逃げたくない。

 ルキとシキは想いをまっすぐに伝えてくれた。

 

 ロマはゆっくり息を吸って、新しいページを開いてまた描き始めた。

 

 答えはーー。


 窓の外が、少しずつ明るくなり始めていた。

 夜が終わり、朝が来る。


 ロマはスケッチブックを閉じて、静かに立ち上がった。

 今日も、学園に行く。

 ルキとシキに会う。

 気まずい空気になるかもしれないけど。

 

 それでも、前に進もう。

 ゆっくりでも。

 焦らなくていい。


 胸の奥がじんわりと温かくなった。


 ロマは窓を開けた。

 冷たい朝の新鮮な空気が、頬を撫でる。

 文化祭前の金木犀の香りは跡形もない。

 季節はもう冬。

 変わっていくものと、変わらないもの。

 ロマの心も、きっと少しずつ変わっていく。

 朝日が昇り始め、部屋がオレンジ色に染まる。


 新しい一日が、始まろうとしていた。

お読みくださってありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
あああ答えはどうなるのでしょう……ドキドキする! 一生懸命考えているロマくんの姿に応援したくなりました。そして健気で涙が……
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