第43話 訪問者
ルキとシキに告白されてどうすれば良いか分からず、ロマはひとりで過ごすことが増えていた。
ルキもシキも俺が答えを出すまで待ってくれると言ってくれたけど、こんな状態でいるのは嫌だ。
放課後の校門前は、夕暮れの光に包まれていた。
ロマは今日も一人で帰るつもりだった。
文化祭の反響でたくさん誰かに話しかけられることが増えた。
それで少し気疲れしていたのもある。
「……ロマ」
不意に呼びかけられたその声に、足が止まる。
振り返ると見覚えのある、思い出したくもない顔が三人。
中等部の頃に同じクラスだった人たちが目の前にいた。
胸の奥が、一気にひやりと冷えた。
足がすくんで動けなくなる。
「久しぶりだね。文化祭話題になってるじゃん」
明るく言われた言葉が、逆に痛かった。
あの頃も、こんなふうに笑って話しかけられていたら――
そんな考えが、一瞬勝手に浮かんでしまう。
でもなんで今更……?
「動画の再生数やばいな。めっちゃ、びっくりした。ロマってすごいやつだったんだな」
男子生徒が気まずそうに視線を逸らす。
「……その、さ」
女子が一歩前に出る。
唇を噛み、迷うように指先を絡めてから、言った。
「私たち……中等部の時、ロマにひどいことした……」
“ひどいこと”
その言葉が、静かに胸に沈む。
わかってるなら最初からするなよ。
「あの時はごめんなさい……」
ロマは思うことや言いたいことがたくさんあった。
でも喉がきゅっと締まって、言葉がうまく出てこない。
校門の外を行き交う生徒たちの声が、遠くなる。
あの時の教室の匂い、昼休みのざわめき、机に伏せていた自分。
すべて忘れようとした記憶が、輪郭を取り戻していく。
「今更だけど……謝りたかったんだ」
「本当にごめん」
頭を下げられる。
――謝られても、どうすればいいのか分からない。
すぐに許せるわけがない。
その時、ロマの背後から声がした。
「……謝るのは良いけど、何で今なんだよ」
低く、きっぱりした声が割り込んだ。
ロマの横に、ルキが立っていた。
紫がかった水色の髪が冷たい風になびいた。
腕を組み、ラベンダー色の瞳が凍てつくような表情で三人を睨んだ。
「謝って簡単に許されると思うなよ」
ルキは俺の喉に詰まっていた一言をいとも容易く放った。
「ロマが話題になったから謝りに来たのか? それとも、本当に今までずっと気にしてたのか知らないけど」
言葉が突き刺さり、三人が黙り込む。
ルキの隣から、柔らかい声が重なった。
「ロマ、大丈夫?」
シキが険しい顔で現れた。
ロマの肩に、そっと手が置かれる。
その温もりに、呼吸が戻る。
「……ロマの正直な気持ちを彼らに言えば良いよ。大丈夫。僕らがついてるから」
三人の視線が、ロマに向く。
急に、世界が静かになる。
ロマは小さく息を吸った。
「……謝ろうとしてくれたことは、分かりました」
声が、少し震える。
「でも、急に話しかけられて……すごく、怖かった……です」
もう会いたくもないし、思い出したくもなかった。
「だから……すぐには許せない」
言い切ると、胸が少し軽くなる。
女子生徒たちは目を伏せ、男子生徒は短く頷いた。
「……そっか」
「ごめん。本当に、それだけ言いに来ただけだから」
三人はそう言い残し、足早に去っていく。
夕焼けの中に溶ける背中を、ロマは見送った。
しばらく、誰も口を開かなかった。
「……大丈夫か」
ルキが、ぶっきらぼうに言う。
「無理しなくていいからな」
「ロマ」
シキは少しだけ屈んで、目線を合わせる。
「君はもう、ひとりじゃないよ」
ロマは、ゆっくり頷いた。
「……ありがとう。二人とも」
胸の奥にあった重たいものが、少しだけ形を変えた気がした。
傷ついた心はまだ癒えない。
でも、今のロマには――
隣に立ってくれる人がいる。
肌寒いけど柔らかな茜色の夕焼けの中、三人は並んで歩き出した。
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